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もうLOVEっ! ハニー!

第20章 秘密のシャーベット


 バンに全員が乗り込んだのはそれから二時間後。
 撮影後の挨拶回りと、今後の選考の説明会、着替えとメイク落としの間、ルカさんは気にかけるように何度も声をかけてくれました。
「疲れちゃいましたよね」
「いえ、私は全然です。ルカさんの方こそ」
「それは日々の体力づくりで問題ないですよ」
「ルカ、これでほんまに終わり? 帰ってええの?」
 小脇に連れられて通用口に戻ってきた岳斗が、張り詰めた声のまま尋ねる。
「ええ、帰りましょう」
 アンナが我先に腰掛け、行きの時と同じ席順に落ち着く。
 テーマパークの帰りのように、現実に戻るのに時間が必要です。
 振動に揺られながら、感想を話しながらも心はふわふわと。
 だから、二列目の会話は聞こえてませんでした。
「これまで一度もスカウトされなかったの嘘でしょ」
「一回東京であった……かな。覚えてへんな。アンナはスカウト?」
「あたしが声かけた」
「そう、こわきんが目の色変えて肩を掴んできたの。ねー。懐かしいねえ」
「よくぞ育ってくれたよ。アリスと姉妹で」
「そういえば妹と君の彼女はその後問題ない?」
「妹? ああ、アリスか。かんなと?」
「え、うん。一学期色々されてたでしょ。あれ、部屋で一緒に話したのってつばるくんだったっけ」
 つばるの名前が聞こえたので顔を上げると、車内の空気が数度ほど下がっている気がした。
「ねえ、かんなちゃん。アリスはしつこいからさ、対処に困ったら私に教えて」
「え、あ、アリスの話してたんですか」
 そこでルカがしまったとばかりに手を差し込む。
「そのお話はやめましょうか、アンナ。本人もいないことですし」
「えー。ルカちゃんの唇は私のものだけどさあ、かんなちゃんの唇はこの子のものでしょ。アリスはそういうのも踏み越えちゃうからさ」
 あ、と。
 その話ですか。
 やばい。
 言ってませんでした。
 えっと、そこの人には話してないですそれ。
 ちょっと、つばるの名前まで出して。
 待ってください、待って。
 だから、この空気。
「せやね、俺はなんも知らんけど」
 その声の能面なこと。
 恐る恐る横顔を見上げると、まだ何か隠してるのかと鋭い視線。
 逃げるようにルカに視線を送ると、アンナの鎖骨を後ろから強く掴んで制止している。
「いだいいだいっルカちゃん! キスマーク消えちゃう!」
 その騒ぎも何処へやら。

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