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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 これまでも何度も同じ問いを自分に問いながら、結局の所、理由が思い至らない。原因が分からないから対策も考えられない。摩訶不思議な現象だ。堂々巡りの毎日を繰り返す。この分からないモヤモヤした気持ちのまま、この先、自分は突然、衝動的に最低の行動を浩志に実行してしまうのではないか。その証拠が彼の匂いを嗅いでしまうと意識が飛んでしまう。別の動物になってしまうようで怖い。最低のメスになりそうだ。これが何かのトラブルで現実になってしまったら取り返しがつかない。そうなる前に、できれば、目の前の浩志に勘太郎と同じように自分の体を触らせ、浩志にも負い目を負わせたかった。こうしてきょうは浩志を性犯罪者にしたい。モヤモヤする毎日からおさらばしたい。
 恵美は浩志のため、とびきり肌の露出した活動的なタンクトップの白シャツを着てきた。濃紺のデニムのミニスカートは今までに日常では着たこともない膝上30㎝だ。わたしの健康的な太ももを見せつけてやるつもりで着た。あまりの短さで自分でも落ち着かないほどだ。
 夏はみんなが薄着だから自分も大胆になれた。彼女はチアダンス部でみんなといっしょにミニスカート姿をしてもちっとも恥ずかしくなかったが、浩志くんだけ見ている目の前でこの姿は少し恥ずかしかった。まるで挑発しているみたい。襲ってください、と言わんばかりだ。もちろん、自分の家を出るまでは浩志くんに襲ってもらいたい一心で着てきたが、こうして、現実、浩志と二人だけで対面していると、彼が襲ってきたらどうしよう、と不安がいっぱいだった。
 改めて、自分の今日の服を見つめた。自分でも恥ずかしいくらい透けていた。だれが見ても襲ってください、と言わんばかりの露出だ。
「浩志くん、早く襲って……」
 自分は浩志の父親と同じ性犯罪者にだけはなりたくなかった。けだもの族の末裔である恵美もいつも自分勝手で身勝手な種族の血を十二分に引き継いでいた。彼らは数万年、そうやって種を繋いで来たのだから彼女もまた当然とも言える考え方であり行動なのだ。

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