幸せな報復
第5章 落ちたカバン
これから彼は性犯罪者沼という底なし沼に入っていくというのに、彼はまだ痴漢行為をなぜしてしまったのか、と検証していた。なぜなら検証の結果によっては痴漢行為をしたことを正当化できるのではと言う万が一にもない期待をしていた。
電車で乗り合わせた女性とまれに隣り合ってしまうことは仕方ない。通常の彼ならこんな状況になったなら、右手でつり革をつかみ左手はビジネスバッグを提げることを常日頃心掛けた。この体制なら痴漢に間違えられることはない。
用心深い彼はこういう状況に遭遇しないよう、今まで、電車待ちの列に女性がいたときは別の列に並ぶことにしていた。そうやって注意を払ってきた。どうしてこんなに注意を払ってきたのか。尋常ではない用心深さ、と自分で思わなかったのだろうか。
彼には痴漢という性犯罪を1回位はしてもいいだろう、という恐ろしい願望が潜在意識にあった。これの理屈でいくと、一人位なら殺人をしてもいいだろう、という歪曲思考となる。それがこともあろうことか仁美に似ている女性が彼の前に出現したことで封印がこじ開けられた。
封印を自ら解いたのだから彼女と同じ列に並んだのはごく自然な準備行動だった。だから、自然に川の流れのごとく彼は同じ列に並んだ。そういう行動しているくせに、彼は自分に限って痴漢行為をすることはありえない、と確信していた。
「あー 終わったぁー」
仁美に似た女の出現により、彼の勤勉で信頼にあふれた幸せな日々がいとも簡単に崩壊した。彼が落胆の言葉を発した直後、握っていた彼女の手を離した。すると、信じられないことに彼の手を彼女が握り返してきた。悪魔のようなあり得ないまれな偶然が二人をエロスの世界に引き寄せたのだ。
この瞬間、二人は田所恵美による報復という泥沼の復しゅうが始まった。
「この人、痴漢でーす」
彼の手は彼女によって高く頭上に挙げられる。周囲の人間が彼をにらみつける。彼はその視線を浴びて声をもらす。
「うぅ……」
電車で乗り合わせた女性とまれに隣り合ってしまうことは仕方ない。通常の彼ならこんな状況になったなら、右手でつり革をつかみ左手はビジネスバッグを提げることを常日頃心掛けた。この体制なら痴漢に間違えられることはない。
用心深い彼はこういう状況に遭遇しないよう、今まで、電車待ちの列に女性がいたときは別の列に並ぶことにしていた。そうやって注意を払ってきた。どうしてこんなに注意を払ってきたのか。尋常ではない用心深さ、と自分で思わなかったのだろうか。
彼には痴漢という性犯罪を1回位はしてもいいだろう、という恐ろしい願望が潜在意識にあった。これの理屈でいくと、一人位なら殺人をしてもいいだろう、という歪曲思考となる。それがこともあろうことか仁美に似ている女性が彼の前に出現したことで封印がこじ開けられた。
封印を自ら解いたのだから彼女と同じ列に並んだのはごく自然な準備行動だった。だから、自然に川の流れのごとく彼は同じ列に並んだ。そういう行動しているくせに、彼は自分に限って痴漢行為をすることはありえない、と確信していた。
「あー 終わったぁー」
仁美に似た女の出現により、彼の勤勉で信頼にあふれた幸せな日々がいとも簡単に崩壊した。彼が落胆の言葉を発した直後、握っていた彼女の手を離した。すると、信じられないことに彼の手を彼女が握り返してきた。悪魔のようなあり得ないまれな偶然が二人をエロスの世界に引き寄せたのだ。
この瞬間、二人は田所恵美による報復という泥沼の復しゅうが始まった。
「この人、痴漢でーす」
彼の手は彼女によって高く頭上に挙げられる。周囲の人間が彼をにらみつける。彼はその視線を浴びて声をもらす。
「うぅ……」