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どこまでも玩具

第9章 質された前科

「進学する気あんのか?」
「一応……?」
 とうとうこの時がやってきた。
 篠田がボールペンを回しながら内申を眺める。
 模試の欠席。
 成績の衰退。
 度重なる早退。
「志望校は?」
 名前も出てこない。
 十二月に差し掛かる、面談の時期。
 熱心に参考書片手に質問をする同級生を傍目に、俺はこの有り様だ。
 類沢と口を聞かなくなり、というか会わなくなり三日が過ぎた。
 紅乃木も金原も接触はしていないらしい。
 多分、自分が避けてるんだ。
「関東圏内ですかね」
「……実家の近くじゃなくていいのか?」
「え?」
 篠田は座り直して、真面目な声で言った。
「妹さん、そっちにいるんだろ」
 驚いた。
 知っていたとは。
 そして、少し感動した。
 やはり、彼は担任だ。
 家庭を心配してたのか。
「ついててあげないのか?」
「……迷ってます」
「おれは従姉妹がいてな」
「はい?」
 篠田は少し柄じゃないように、控えめに話し出した。
「二つ下の従姉妹で、一緒に住んでたんだ。妹みたいなもんだった。大学進学と同時に離れ離れになった。それから一年経たないうちに、そいつから電話があった。『なぜ一度も帰ってこないのかって』」
 美里が重なる。
「正直予想外だったね。こっちとしては、新たな環境に馴染むのに精一杯だったから……ま、置いてかれる身と出て行く身じゃ、事情が違うってことだ」
 俺は空気を見て頷く。
 新しい篠田に触れた気がした。
「真剣に考えろ。来週、最後の模試がある。センターだってもう出願したんだ。どう足掻いても一月には試験だからな。いいか、一ヶ月だぞ」

 職員室から出て、篠田に渡された紙を見る。
 関東圏内で、今の実力で届きそうな大学の学科一覧と判定。
 生徒一人一人にこれを作成する手間は果てしないだろうな。
 自分の進路に関わるのは自分だけじゃない。
 久しぶりに受験者としての感覚が焔を上げた。
 やりたいこと。
 見つけなきゃ。

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