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どこまでも玩具

第12章 晒された命

 一週間にそれほど量は撮らない。
 だからだろうか。
 一枚一枚が鮮明に場を再現しているようだ。
 あの最悪な日が近づく。
 屋上に類沢が探しに来た日。
 どんな俺が写っているんだろう。
 ゆっくりとボタンに力を入れる。
 声にならない言葉が漏れた。
 よろよろとベッドに座る。
 朝日が画面に反射している。
 そこにいたのは、真っ直ぐにカメラを見つめた俺だった。
 クッションを抱えて。
 日付は飛んで、類沢が家に夕食を作りに来たときだ。
 いつだ。
 料理を作っているときか。
 睨んでたときか。
 ズームした俺は、口をへの字に曲げて、悔しそうな嬉しそうな曖昧な表情をしていた。
 撮るのもわかる。
 不思議な顔だ。
 俺はカメラに気づいていない。
 類沢しか見ていなかったんだ。
 真正面にも関わらず。
 布団に倒れる。
 こんなの見てしまうと、益々夢のことが信じられない。
 予知夢じゃないんだ。
 でも、確かなこと。
 何が引き金になるかはわからないけど、類沢は裁判に勝てない。
 勝ったら、恐ろしいことが起きる。
「俺は……どうすりゃいいんだ」
 カメラを元の位置に戻す。
 差し当たっては、勉強道具を取りに行かなきゃ。

 大きなビル街の一角。
 その一つから出て来た二人がそのままバーに入ってゆく。
「急な申し出だったのに、引き受けてくれてありがとうございます」
「やぁね。雅の願いならいつでもどこでもよ」
 類沢は椅子を引き、女性のコートを受け取る。
 注文したワインを舐めながら、彼女は微笑んだ。
「裁判は慣れてるけど……雅が客になるとはね」
「予想外でしたか?」
 目を瞑り、首を振った。
「意外に遅かったくらい。犯罪者気質だもの」
「くく……弁護士に言われると何も言えませんね」
 マスターがカクテルを作る音が心地よく響く。
 時刻は五時。
 冬の街は薄暗かった。
 常連達は半分を占めている。
「雅はね、苦手なものがないわよね……だからそう見えちゃうの」
「苦手なもの、ですか。確かに思いつかない……いや、ありますよ」
「あら。なあに?」
 類沢はグラスを置き、波面を見つめた。
 赤い液体が揺れる。
 渦を巻き、ほのかに泡を放ち。
「失いたくないものです」
 女性が目を見開く。
 それから溜め息を吐いた。
「そう……良かったわね」
「良かった?」

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