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どこまでも玩具

第12章 晒された命


 飲酒運転など知ったことではない。
 類沢はエンジンを掛け、腕時計を一瞥した。
 午後八時。
 こんな時間にどこに行く。
 違う。
 ハンドルにもたれる。
 こんな時間に、瑞希を連れて西雅樹はどこにいる。
 携帯を取り出す。
 さっき見たメール二件。
―忘れたので、家に勉強道具を取りに行ってきます。すぐ帰ります―
―大事なものを見つけられるかな雅先生? 間に合わなかったら壊れちゃいますよ、玩具が―
 瑞希の家を知っていたんだろうか。
 瑞希はついて行ったのか。
 考えても仕方がない。
 発進させ、瑞希の家に向かった。
 車もない雅樹に人を運ぶ手段は限られている。
 ならば移動せずに籠城する可能性が一番高い。
 信号を迂回し、夕方の混雑をすり抜けて走る。
 ネオンが線となって過ぎていく。
 手が凍りそうに冷える。
 雪がチラついてきた。
 暖房に手を伸ばし、やめる。
 頭を冷やした方がいい気がした。
 パトロール車が、目の前で車を捕まえている。
 警官が光る棒を振り回して、車の列を乱している。
 面倒だ。
 脇道に入り、赤い光から逃れる。
 ナビが叫ぶが無視する。
 今は止まってられない。

 ガタンと音を立ててドアを閉める。
 家は真っ暗だ。
 異様なほどに。
 カーテンが締め切られている。
 ありえない。
 瑞希からのメールは今朝だ。
 わざわざ締め切る意味がない。
 可能性が高まる。
 西雅樹。
 お前の仕業か。
 玄関のドアノブを握る。
 ガチャン。
 鍵は閉まっていなかった。
 誘い込むように。
 可能性は確信に変わった。
 瑞希と雅樹はここにいる。
 室内は闇だった。
 足を踏み出すのも躊躇われる。
 息を潜めて歩こうとしたとき、突然電気が一斉に点いた。
 油断していた。
 焼かれた網膜が視界を奪う。
「随分遅かったねー」
 首筋にナニかが押し付けられる。
 声の元に殴りかかった手にロープが巻き付く。
「雅先生? あ、いや。もう先生じゃないから雅さん、が正しいか」
 輪郭を取り戻してゆく世界に、雅樹の笑みが広がる。
 後ろに手を固定されている。
「いつ来るのかジワジワしてたよ。まさか来ない訳ないよなって」
 冷たい手で頬に触れてくる。
 何時間…ここに潜んでいたのか。
 暗闇に。
「良かった。罠にかかってくれて」
 その笑みは、狂って見えた。

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