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どこまでも玩具

第12章 晒された命

「瑞希は?」
 雅樹が持っていたものをクルクル回しながらほくそ笑む。
 釘だ。
 喧嘩で使っていた釘。
 ボールペン程度の長さで、切っ先がペン先より鋭い。
「今の玩具はあの男なんだ」
「……嫉妬でもしてるの」
 雅樹の表情が消え、釘を顎に突きつける。
 無理やり押し込められ、刺すような痛みが駆ける。
「一度も勝ったことないクセに」
「手が使えないんじゃ、わからないだろ」
 ギチ。
 さっきから解こうとしているが、随分キツく縛られている。
 まあ、足だけでも負けることはないんだけど。
「何がしたいの?」
 同じことを尋ねた。
―何が目的かな―
―目的? そんなの関係ないじゃん。いずれわかるしさ―
 あのときは答えなかったが、今が「いずれ」なのだろう。
「イヤガラセ?」
 雅樹は楽しそうに釘を離した。
 残痛が鈍く広がる。
「宮内瑞希ねー。裁判に出ないって云うんだ。だからムカついてさ」
「何した?」
 釘を持ち替え、空気を刺すジェスチャーをする。
「こう、サクーッとね」
 左足で勢いよく膝を蹴り上げたが、雅樹は感じないかのように軽く身を引いた。
「冗談じゃん。確かめてみれば?」
 階段を示す。
 上らない類沢を見て、渋々先に上り始めた。
 慎重について行く。
 先に台所にでも行って縄を切りたかったが、あの様子の雅樹を瑞希の元に行かせるのは不安だった。
 入って行ったのは瑞希の部屋。
 ベッドに腕が見えた。
「瑞希!」
 雅樹が肩をガッと止める。
 耳元で愉しげに囁いた。
「起こさない方がいいよ。痛みがぶり返しちゃうから」
「……お前は」
 睡眠薬でも飲まされたんだろうか。
 瑞希は意識が無く、身動き一つせずに横たわっていた。
 息はしている。
「ここで一つ雅さんに提案があるんだけど」
 雅樹が釘を瑞希に向ける。
 確かな殺意を持って。
 よく見るとベッドの周りには釘が散らばっていた。
 ここで何が起きたのか。
 想像するのも反吐が出る。
「裁判に負けてこの男と別れて」
 言い聞かせるような口調。
「あははは……後半の意味は?」
「だって先生はまだ俺のものだよね? ああ、雅さんだったね。俺とお揃いの名前……」
 嬉しそうに呟く。
―いつか先生が俺以外をそばに置くなら……―
「もししなければ?」
「この男、壊しちゃうかな?」

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