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どこまでも玩具

第12章 晒された命

「死ねって何回云ったら死んでくれますか、雅さん」
「んー……なら咬み千切るなり、刺すなり何でやらないの?」
 理由は単純だ。
 やれないから。
 そんな度胸はないから。
 紅乃木哲と同じだ。
 牙だけ振り回して、結局何も出来ない。
 持つだけ虚しいというのに。
「…」
「死んで欲しいと願ったところで死なないよ。殺されない限り……類沢雅は死なない」
「…卑怯者」
「あはは、それが最大の嫌がらせだろう? お前が大好きなイヤガラセだ。我慢ならないなら自慢の腕力でねじ伏せればいい話だ」
「そんなにこいつが大事ですか」
 瑞希を指差す。
 その爪先から血が滴る。
「少なくとも、西雅樹よりは大事かな。失いたくないから」
 雅樹はジリジリと後ろに下がる。
 少しずつベッドに近づくのを類沢はいつでも駆け寄れる体勢で見守っていた。
「ムカつく……」
 屈んで、釘をつまみ上げる。
 隣のものも。
 また下がって拾う。
「……ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくなあっ!!」
 指先から零れる程の量を力で押さえつける。
 それは変形した歪な手のようなシルエットを描いた。
 類沢は、それ以上哀れなものを見たことが無かった。
「雅樹」
「煩い!」
「後悔するよ」
 瑞希のそばに立ち、釘を握り締める青年に優しく警告する。
「そんなことしに来たんじゃないんだろ」
「本当にあんたは口煩いなぁ……」
「今お前と話さないと一生悔やむことになりかねないからね」
 ゆっくりと足を踏み出す。
 狭い部屋なのに、瑞希が無限に遠く感じる。
 紅乃木父とは違う。
 彼は狂気を狂気と気づいて振るっていた。
 だから、一瞬で瓦解する脆さがあった。
 雅樹は違う。
 気づいていない。
 自分を突き動かすのはあくまで他人のせいだと思い込んでいる。
 血走った眼からは躊躇が無くなっている。
 慎重にならざるを得ない。
「雅先生っ!」
 いきなり雅樹はこちらを向き、しがみついた。
 予想外に反応が遅れる。
 バラバラっと数本釘が音を立てて落ちたが、まだ雅樹の手に残っている。
「俺を愛して下さいよっ!」
 振り上げた手を見て、類沢は庇うことも忘れた。
 大量のリストカットの跡。

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