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どこまでも玩具

第12章 晒された命

 河南がキラキラ光る砂の中で、精一杯笑顔を見せる。
「もう一回、瑞希ちゃんに会いたかったな」
「河南! 手を伸ばして。一緒に行こうっ」
 笑ったまま、頭を振る。
 横に。
「行けないよ」
 砂場が消える。
 彼女は砂に巻かれ、だんだん赤く染まった。
 血。
 あまりに美しい彼女には、似合わない赤。
「行けない」
「河南……」
「瑞希ちゃん、気づいてるでしょ」
「い……いやだ」
 胸がえぐられるように攣る。
 悲鳴を噛み殺し、河南の方に手を伸ばす。
「河南!」
「私はね、私は……」
 言葉に詰まり、真っ赤な手で涙を拭う。
 いやだ。
 聞きたくない。
 それでも河南の声は心に響く。
「私は一昨年……っ、学校の帰り道にね……」
 痛みも忘れる。
 そう思い込んだだけかもしれない。
 でも、今は彼女に触れなきゃいけない気がした。
 言葉を続けられずに崩れる彼女に。
 少しずつだけど、砂場に近づく。
 何十もの手に背中を引っ張られている感覚がする。
 髪を引かれ。
 腕を引かれ。
 服を引かれ。
 でも、歩いた。
 真っ赤な制服の中で苦しむ河南の元に。
「会いに行けなくてごめんっ!」
 伸ばした両手が、彼女の肩を貫く。
 呆然として、手を下げる。
 触れない。
 触れない。
 さっきみたいに触れない。
「瑞希ちゃん、最後に触れられて良かったよ」
「河南、河南! 行くなって!」
 砂が彼女を覆い尽くしていく。
「私はどこにも行かないよ。ずっとここにいるの」
 鳥肌が立つ。
 ザクッ。
 足から崩れ落ちる。
 そのまま無数の手に引かれる。
「河南っ!」
―瑞希ちゃんには、私以上に必要な人がいるでしょう?―
「誰だよっ、そんなの!」
―思い出して。私の声なんか忘れてさ、その人に耳を傾けなきゃ―
「できないよ!」
―できるよ。だって、瑞希ちゃんは今までそうして来たんだから―
「知らない!」
―思い出して。思い出せるから。ほら、その手は誰のもの?―
 自分の手を掴む手。
 いや、優しく握る手。
 大きくて、細い手。
 俺は、何度もこの手に救われた。

 そうでした。
 類沢先生。

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