どこまでも玩具
第13章 どこまでも
四日後の昼休みだった。
書類を整理していると、職員室の方が慌ただしくなった。
外に出てみると、サイレンも聞こえる。
類沢は騒ぎの方に向かった。
国語の波賀が此方を見つけて歩いて来る。
「どうしました」
「私も詳しくはわからないんですがね……化学室で何かあったみたいで」
そこに女性教師がやってきた。
「類沢先生に波賀先生。大変なんですよ。男子生徒三人が化学室に忍び込んで薬品を勝手に使ったみたいで、酷い怪我を負ったようです」
「忍び込んで?」
昼休みもあって生徒がわらわらと集まってきた。
類沢たちは玄関に向かう。
後ろで体育担当が生徒を必死に留めていた。
担架に乗る男子を見てはっとする。
顔を押さえ、息も絶え絶えの男子。
腕に包帯を巻いている男子。
見覚えのある三人。
いつか、屋上で見た……
「雛谷先生!」
波賀が叫ぶ。
まさか。
階段の壁にもたれ、辛そうに降りてくる。
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫に見えるー?……ナミナミ?」
波賀の愛称。
「腕、どうしたんですか」
「あは……生徒庇った時にね」
類沢が近付くと、雛谷はニィッと口の端を持ち上げた。
予感が的中した。
「手伝いますよ!」
波賀が救急隊員の元に行ってから、口を開く。
「……やったの?」
「わかっちゃうかぁ」
よろりと崩れた雛谷に肩を貸す。
怪我は本物のようだ。
「類沢先生だけはバレる気してたんだよね」
「あの三人見ればね」
「ふふ……ようやく復讐だよ」
サイレンが響く。
晃達が救急車に運ばれる。
「あいつら、女子も数人脅してたみたいでさ。相談された時にもう計画立ててたなぁ」
それから類沢を見上げる。
「ま、瑞希以外はどうでもいいんだけど」
「嘘吐くね」
「ははは……そうですね」
「硫酸?」
「そこは秘密ですよ」
救急車が出て行く。
教師達が戻って来る。
「アナタの次に、裁判ですかねー」
「僕は受けてないけど」
雛谷が目を見張った。
「恐い恐い……」
「お前に云われたくないな」
「雛谷先生、詳しい事情を報告して下さい」
教頭がそう言った。
ざわめきが聞こえてくる。
雛谷は腕を外し、一人で教頭の方に歩いた。
ふっとこちらを向き、泣きそうに笑った。