どこまでも玩具
第13章 どこまでも
噂は早い。
つい今朝まで僕の裁判を口にしていた生徒が、もう雛谷のことを話している。
「あの先生だもん。絶対過失とかじゃないよ」
「ヒナヤン先生好きだったのにー」
「つか晃達が来ないとかマジ嬉しいわ。あいつら問題起こしすぎなんだよな」
類沢は椅子に座って、廊下から響く会話をぼんやり聞いていた。
ペンを置き、背にもたれる。
自分もああやって噂されたんだろうか。
くだらない。
暇なものだな、学生は。
類沢は一息吐いて、ある場所に足を運んだ。
コンコン。
「どうぞー」
開き戸から覗いた顔は、疲れ切っていた。
「まだ帰ってなかったんですかぁ」
「こっちの台詞だけど」
雛谷はカチャカチャと破片を片付けていた。
机の角には焦げ痕が残っている。
薬品臭を消すためか、窓は全て開け放たれた。
「校長から謹慎食らっちゃった……管理不届きだって」
「それで済んで良かったじゃん」
「まあねぇ」
ガラガラとゴミ箱に破片が砕ける。
変色したガラス。
雛谷はそれを見つめながら、手を下ろした。
「……アナタが帰って来たからですよ」
尋ねたいことを汲み取ったように呟く。
類沢は黙って壁に寄りかかった。
「本当はこのまま卒業させても良かったんですけど、アナタが裁判で辞めちゃえば、真相知るのは瑞希だけで、無視も出来たんです。でも」
雛谷はロッカーに道具を片付けて俯く。
「……悔しくなったんですよねぇ」
類沢は静かに髪を耳にかけた。
「あいつら、結局アナタからの瑞希への復讐しか受けてないじゃないですか。このままだとムカついて、仕方なかったんです」
沈黙が流れる。
雛谷は泣いているようにも、笑っているようにも見えた。
ポケットから持ってきたものを取り出し、声をかける。
投げられたものを両手で受け止め、雛谷は首を傾げた。
「保険」
「え?」
テープに目を落とす。
「どうしたって勝手だけど」
「じゃあ、こうします」
雛谷はビーッとテープを引き出し、グルグルにしてゴミ箱に投げた。
地に着く音が響く。
夕暮れの中。
「最良の選択だね」
「ふふ……これは瑞希の為に作った保険でしょう? いりませんよ」
無言で笑う。
「あー、スッキリしました。片付けも終わったし帰りますかね」