どこまでも玩具
第13章 どこまでも
廊下で座っていると、医師がやってきた。
雛谷も落ち着きを取り戻し、一緒に立ち上がる。
「……命に別状はありません」
「良かったぁ」
雛谷が息を漏らす。
「ただ、今回かなり心臓にも負担がかかりましたし……今夜意識が戻らなければ、このまま」
「脳死になる可能性があるんですね」
類沢のはっきりした問いに、医師は黙った。
答えたと同じだ。
類沢は医師や看護師が去った病室に入る。
機械音しかしない。
変わらない。
昨日と変わらず眠っている。
でも、体は限界だ。
「送るよ」
類沢は雛谷に呟いた。
「僕は泊まるけど」
雛谷は何か言いかけて飲み込んだ。
自分も居させてくれなど傲慢。
今度は類沢を一人にさせる番だと感じ取った。
駅に降ろされ、無言を貫く類沢を一瞥する。
目が合った時、寒気が走った。
そこには、純粋な感情が渦巻いていたから。
冷静沈着で感情を滅多に表さないからこそ、こうした一瞬は神経をざわつかせる迫力がある。
冬の冷気ではない冷たさに身が凍えた。
車を見送り、雛谷は歩き出した。
ここからなら家は近い。
歩く位が今は丁度良かった。
明日の朝、瑞希はどうなっているんだろうか。
そればかりが頭を占めた。
雛谷を降ろした後、病院まで飛ばした。
今ならパトカーからでも逃れきれる自信があった。
煙草をくわえる。
煙を脳に満たし、冷静になりたかった。
だが、出来ない。
体温は下がらない。
心拍数は小さくならない。
ただただ病室を目指す。
医師達が走って行くのとすれ違った。
瑞希だけじゃない。
死線をさ迷う人が、ここには何人もいる。
瑞希の横に座り、その髪を優しく撫でる。
何回こうしただろう。
初めて会った時、気を失った瑞希にも同じことをした。
覚えていないはずだ。
自分自身今まで忘れていた。
あの時から、既に予感はしていたのかもしれない。
遊びじゃないと。
それで終わらせたい心はいつ負けたのか。
耳に触れる。
髪をそっと掻き上げ、首筋に指を這わせる。
もう、自分が付けた痕は全て消えていた。
消えた。
今の瑞希は、会った当時の瑞希に戻ってしまったのかもしれない。
全ての時間が消え失せて。
その証拠すら無くして。
手を握る。
骨が感じられる。
押さえつけたりもした手。