どこまでも玩具
第13章 どこまでも
光が差し込んでくる。
鳥がさえずり、窓を横切った。
日の出だ。
類沢は陽光の眩しさに瞬きを何回かした。
病室を光が段々と占めていく。
夢か現か定まらない。
突然、手に違和感を感じた。
眉をひそめて目をやると、かすかに指が動いたのだ。
瑞希の呼吸が不規則になり、瞼が収縮する。
起きる。
類沢は組んでいた脚を解いて、ベッドに向き直った。
その瞬間は呆気なく訪れた。
パチッと眼が開いたのだ。
しばらく天井の模様を確かめるように静止したのち、周りをキョロキョロと眺め回す。
朝日に目を細め、それから類沢を見つけた。
僅かに見開き、息を吸う。
視覚はある。
類沢は瑞希の言葉を待った。
長い沈黙。
実際には、数十秒だったかもしれない。
「あ……」
身を起こそうとして、顔を歪めた。
まだ傷は完治していない。
心臓を押さえ、冷や汗をかきながら浅い呼吸を繰り返す。
類沢が支えると、微かに会釈をした。
「あの……」
その表情に全てを悟った。
すぐには受け入れられない事実が包み込んでくる。
「あなたは、誰ですか」
覚悟していた。
そう言えば、嘘になる。
けれども、奇妙なことに動揺は微塵にもなかった。
記憶喪失など、関係なかった。
「え……なんで、ここに。俺……誰かが呼んで……俺」
頭を抱えながら、早口で呟く。
シーツを見つめて。
「か……なん」
類沢は片眉を上げた。
なぜ、今西雅樹の妹の名が?
「俺、河南に会って……河南に、云われて……ああ、くそっ……あのとき、云われたのは……」
医師の言葉が浮かぶ。
手術中、一度心拍が止まったと聞いた。
亡くなった河南に会ったなら……
類沢は今の考えを冷笑する。
わからないことを考えても、仕方ない。
瑞希はシーツを強く握った。
それから左手を右手でなぞる。
さする。
確かめるように。
「手……あの手」
何かを逃してしまったかのように、顔を歪めた。
「ああっ……ここどこだ。俺はなんなんだ……あれは」
類沢は優しく横から抱き締めた。
「考えなくていいよ」
瑞希がその腕にしがみつく。
「嫌です」
小さく、力強く囁いた。