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どこまでも玩具

第13章 どこまでも

「思い出さなきゃ……」
 言葉が終わる前に、唇を重ねた。
 瑞希が目を見開く。
 何か言いかけた口に舌を差し込み、絡ませる。
 クチュリという音がやけに響く。
 抵抗にベッドが軋んだ。
 肩が強張る。
 噛みつこうとする度、首筋をなで上げた。
 声が上がりそうになるのを必死で我慢している。
 奥に逃げる舌を引き出す。
 羞恥で熱が上がった。
 胸元をドンドンたたかれる。
 その内、力無く縋るように、震える指で肩を掴んだ。
 口の端から唾液が伝い、鎖骨に滴った。
 離れた時、瑞希は息が切れていた。
 信じられないように濡れた唇に触れる。
「あ……」
 揺れる視線が目の前の男を捕らえた。
「僕は類沢雅だ」
「な……ん」
 下唇を噛み締めて、思い切り右手を振りかぶる。
「記憶が無くなっても構わない」
 手が空中で止まる。
 目は見張ったまま。
 瑞希が首を傾けながら、僕を観察する。
 手を掴み、ゆっくりと下ろさせた。
「お前の教師だった僕を忘れていても構わない。一つ先に謝らせて欲しい。僕のせいで辛い目に遭わせてしまった……ごめんね、瑞希」
 困ったように見上げてくる。
「それからね」
 額がくっつきそうなほど、顔を近づける。
 逸らそうとした頬に手を添え、無理やりこちらを向かせた。
「お前が何回忘れたって、落としてあげる。その自信があるんだ」
 太陽が雲に隠れ、瑞希は影に包まれた。
 射竦められたように、僕を見つめて。
「だって」
 笑い出したくなる。
 その衝動をとどめて、口を開いた。



「お前は、どこまでも僕のものなんだから」



 太陽が姿を現して、部屋が光に満ちた。
 瑞希は生唾を飲み、深い呼吸を繰り返す。
 ずっと握っていた、左手に触れて。
 僕は身を起こして、カーテンを開放した。
「とりあえず、医者に知らせなくちゃね。瑞希が起きるのを待っていた人は沢山いるんだ」
 類沢は出口に向かった。

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