あの店に彼がいるそうです
第7章 どちらかなんて選べない
「おかえり」
チャイムを鳴らそうと手を上げたまま固まる。
風呂上がりの類沢がタオル片手に扉を開けたのだ。
「まだ、鳴らしてませんけど……」
「足音が響くんだよ」
ふっと煙草の香りが掠めた。
押えのなくなったドアが閉まる。
バタン。
靴を脱ぎ、リビングに入ろうとしたとき、戸棚の上に灰皿を見つけた。
新しい灰が積もっている。
なんで、玄関にあるんだろう。
俺はキッチンに向かう背中を眼で追う。
いつもはリビングに置いてある。
わざわざ今持ってきたりするか。
ひょっとして、ずっと玄関で待ってたのかな。
彼の髪は、水が滴らない程度に乾いていた。
思っていたより空腹だったようで、類沢が温めてくれた夕飯を一気にかき込んだ。
むせそうになり、さんぴん茶を一気飲みする。
「なんも食べなかったんだ」
「送っただけですから」
食器を流しに運び、あくびをしながら洗面所に向かう。
セットした髪をくしゃくしゃにして、顔を洗った。
「……っぶは」
とびきり冷たい水で。
何度も。
もう何が原因かわからない熱は散々だ。
首元と額も清めたところで着替える。
風呂は明日の朝でいいや。
追い炊きできるし。
ガチャ。
「ううわっ」
丁度シャツを脱いだところで類沢が入ってきた。
「ああ、着替えてたの?」
なんの悪びれもなく云う。
俺は急いで脱いだシャツで胸を隠す。
そしてすぐに自分の性別を思い出す。
隠す必要なんてないのに。
タオルを掛ける類沢から目を外さずに寝巻を被る。
「河南ちゃん」
「はいっ?」
頭を出した瞬間に類沢が振り向いた。
「なにか言ってた?」
なにか。
それはどれを指しているんだ。
チャイムを鳴らそうと手を上げたまま固まる。
風呂上がりの類沢がタオル片手に扉を開けたのだ。
「まだ、鳴らしてませんけど……」
「足音が響くんだよ」
ふっと煙草の香りが掠めた。
押えのなくなったドアが閉まる。
バタン。
靴を脱ぎ、リビングに入ろうとしたとき、戸棚の上に灰皿を見つけた。
新しい灰が積もっている。
なんで、玄関にあるんだろう。
俺はキッチンに向かう背中を眼で追う。
いつもはリビングに置いてある。
わざわざ今持ってきたりするか。
ひょっとして、ずっと玄関で待ってたのかな。
彼の髪は、水が滴らない程度に乾いていた。
思っていたより空腹だったようで、類沢が温めてくれた夕飯を一気にかき込んだ。
むせそうになり、さんぴん茶を一気飲みする。
「なんも食べなかったんだ」
「送っただけですから」
食器を流しに運び、あくびをしながら洗面所に向かう。
セットした髪をくしゃくしゃにして、顔を洗った。
「……っぶは」
とびきり冷たい水で。
何度も。
もう何が原因かわからない熱は散々だ。
首元と額も清めたところで着替える。
風呂は明日の朝でいいや。
追い炊きできるし。
ガチャ。
「ううわっ」
丁度シャツを脱いだところで類沢が入ってきた。
「ああ、着替えてたの?」
なんの悪びれもなく云う。
俺は急いで脱いだシャツで胸を隠す。
そしてすぐに自分の性別を思い出す。
隠す必要なんてないのに。
タオルを掛ける類沢から目を外さずに寝巻を被る。
「河南ちゃん」
「はいっ?」
頭を出した瞬間に類沢が振り向いた。
「なにか言ってた?」
なにか。
それはどれを指しているんだ。