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あの店に彼がいるそうです

第7章 どちらかなんて選べない

 新聞紙は丸めたまま金属バットのように玄関に立てかけられた。
 今の騒ぎ、一夜たちに筒抜けじゃないか。
 俺は隣を一瞥して、忍の部屋に入る。

 長居する気はなかったが、拓にがっしり捕まえられているから帰れない。
 俺にいてほしいんではなくて、忍が機嫌を直さないから仲介人が欲しいんだろう。
「なにがあったの、てめぇ」
 どっかりとベッドにもたれて座った忍が尋ねる。
 タンクトップだから腕を頭の後ろで組むと細い腋が丸見えだ。
 綺麗に剃られた曲線が女みたいだ。
 前に拓から相談されたことの一つ。
 忍がいちいち欲情させてきて困ると。
 知るかって話だ。
 横を確認すると、拓がそこから必死で眼を逸らしている。
 なんだかんだ、平和だな。
 この二人は。
「ホストやってんの?」
「まあ……一応」
 拓がぐいっと肩を引く。
「マジで!?」
「耳元で叫ぶなっ」
 鼓膜に痛みが走る。
「瑞希から離れろ、バカが」
「あっ、嫉妬?」
「……うっぜぇ」
 また空気が険悪になる前に口を開く。
「歌舞伎町のさ、シエラって店知ってる?」
 忍がガバっと身を乗り出す。
「じゃあ、あの類沢さん本物だったのかよっ」
「え? なんで忍知ってる感じなの?」
 長い黒髪を掻き上げながら目を見開く。
「歌舞伎町№1ホストのっ?」
「そ……そうだけど」
「ナニ、誰?」
 忍の嬉しそうな反応に少し不満げな声を洩らす拓。
「やべ……瑞希やべぇな」
「忍の浮気相手?」
「誰がてめぇの恋人だ、バカ」
 挟まれた俺はどんな顔をすればいいんだ。
「どこで接点があったの」
「あ? ああ、えっと。新宿に行ったときに、バーで怪しい男に絡まれたんだよ。ホストに興味ないかって。なんつー名前か忘れたけど、俺のこと可愛い可愛いってバカにしやがってな」
「それ、雛谷さんだ……」
「振り切れなくて困ってたら、類沢って男が止めに入ったんだよ。嫌がってるでしょ、って。めちゃくちゃモテそうな感じの。先月だっけか?」
 話している間に俺の隣から移動した拓が忍に抱き付く。
 ぎゅーっと肩に頭を埋めて。
「だから忍は危なっかしいんだよ! オレから離れて街歩いたら攫われちゃうって」
「熱ぃな、離せ」
 まさか、ここで類沢と繋がりがあったとは。
 そこで河南を思い出す。
 ありえる気がした。

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