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メダイユ国物語

第3章 幕間 その一

「――分かりました……従います。二人には手出し無用です」

 マレーナは苦渋の選択をした。

 彼女の返事を聞くと男は剣から手を離し、最敬礼をして扉から出ていった。すぐにガチャリと、扉が施錠される音が鳴った。

「お父様――」

 マレーナは窓際に駆け寄り、広場を見下ろした。断頭台の元に、男がひとり連れて来られたところだった。

「姫様……」

 台所で食事の準備をしていたファニータは、外で何が行われているのかを知らない。彼女には王女の重く思い詰めた表情の理由が分からなかったが、それを訊くことも出来ずにいた。

 広場では兵士のひとりが、男の頭から被せられていた布を取り去った。その下からは国王バルトロ・イェンネフェルトの顔が現れた。すでに覚悟を決めているのか、その表情は王としての威厳を崩すことはない。

「お父様ぁっ!」

 窓から身を乗り出して叫ぶマレーナ。だが広場に集まった兵士たちの声で、その声は届きようもなかった。

「危険です!」

 ファニータは王女の肩を掴み、身体を引き戻す。

「あっ!」

 外の様子をようやく知ったファニータが驚きの声を漏らした。

 マレーナの目線の先では、二人の兵士が力づくで国王を跪かせ、ギロチンの台座に頭部と両手首を固定しているところだった。

「国王様……」

 これから何が行われようとしているのか、ファニータも察した。

「――ファニータ、パウラ! 二人とも下がりなさい!」

 父親の、国王の最後を見届けるのは、娘である自分ひとりで十分だと言わんばかりに、マレーナは涙声で侍女たちに命じた。二人に残酷な場面を見せたくないという気遣いでもあった。

「は、はい……」

 言いながら、ファニータは窓際のパウラの肩に手を添え、室内の奥へ連れて行った。

 マレーナは再び広場に目を向ける。

 父親の首と両手首はすでにギロチンの台座に固定され、身動き出来ない状態にされていた。

 傍らに立つオズベリヒが身を屈め、国王に何かを話し掛けているようだ。最後の言葉を聞こうと言うのだろう。しかし、国王の頭部は俯いた状態で固定されいているため、彼が言葉を発したのかは不明だった。

 オズベリヒは態勢を戻すと、側に立つ兵士に合図を送る。ギロチンを操作する執行人である。彼は足を揃えて敬礼すると、操作レバーに手を掛けた。

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