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メダイユ国物語

第4章 非情な実験

 彼女は三日前、処刑された国王と殺されたグレンナらの葬儀の帰り道、オズベリヒ配下の兵士に「手を貸して欲しい」と依頼された。同行していたパウラを先に帰し、彼女は兵士に同道する。ファニータが連れて来られたのは、この医療施設の一室だった。入院用の病室で、彼女はこの三日の間ごく普通の生活――朝起きて、三度の食事を与えられ、夜寝る――を送っただけだった。一日のうちに何度か、医者の姿をした男が部屋にやって来ては体温を測ったり、採血されるなど身体検査を受けることはあった。食事の際には何種類かの薬の服用を求められた。

(これがお手伝い?)

 重労働を課せられるのでは、と不安を覚えていた彼女にとっては、拍子抜けする依頼内容だった。

 ファニータは気付かなかった。この三日間が、オズベリヒの計画――人体実験――のための下準備であることに。彼女は被験者として、万全の体調管理をされていたのである。

「あともうしばらく、お付き合いください」

「あの、私は何を……あれは何なのでしょう」

 足元の先にある檻を指差して尋ねた。そこからは、時おりグルルと獣が喉を鳴らすような呻き声が聞こえる。ファニータは不安で一杯だった。

「気になりますか? ではお見せいたしましょう」

 そう言いながら、オズベリヒは彼女の足元の先、その檻の方へ歩を進め「おい」と、傍らの白衣姿のひとりに声を掛けた。

 檻に照明が当てられ、その中でうずくまる『固まり』の正体が、ドワモ・オーグの若い雄の醜い姿が、ファニータの目に飛び込んだ。

「ひっ……」

 悲鳴を上げ、身体をすくませるファニータ。逃げ出したかったが、手足が鎖で繋がれているため自由が効かない。

「怖がることはありません。彼は大人しいですよ?」

 まるで泣く子供をあやすかのように、オズベリヒは言葉を掛けた。

「あ、あの……私は……何をすればいいのですか?」

 目に涙を浮かべながら、ファニータは恐る恐る彼に尋ねる。

「今からあの者と交わっていただきます」

「え? 交わる? 交わるって……」

 オズベリヒが何を言っているのか、彼女には理解出来なかった。

「お前の歳ならもう分かるでしょう。身体を交えるという意味です。性交(セックス)ですよ」

 彼は事務的な、感情のない口調で答える。

「え……?」

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