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メダイユ国物語

第6章 小さな慰み者

 これでは単なる時間稼ぎだ。いつまでも誤魔化せるとは思えない。もし、ファニータの身が最悪の事態に見舞われたとしたら……。あのケダモノの子を宿してしまったとしたら……。

「承知致しました。ファニータ様の分も私がお勤め致します」

 マレーナの杞憂をよそに、パウラは健気に答える。

「ううん、無理はしないで。あなたにまで倒れられたら、わたしが困ってしまうもの」

 パウラの肩に手を添え、無理に作った笑顔で言い聞かせるマレーナは、

「だから、困ったことがあったらひとりで抱え込まずに、何でも相談して。ね?」

 と続けた。

「は……はい」

 だが、パウラはそれでも悩みを打ち明けることもなく、洗い物をしてくると言い、伏し目がちに部屋を後にした。


 夜が更けると、パウラはそわそわと落ち着かない様子を見せ始める。やはり彼女は何かを隠している――マレーナは胸騒ぎが抑えられなかった。

「あの……マレーナ様」

 マレーナがそろそろ床に就こうと思ったその時だった。パウラが思い詰めたような表情で、彼女に声を掛けた。

「私、今夜もお手伝いをするように言われております。……これからしばらくそちらへ参らねばなりません」

 そう言うパウラの顔色は、やはり優れない。

「こんな遅い時間に?」

 マレーナは彼女に不審な顔を向けた。

「は、はい。あの……ご心配には及びませんので……」

 そう言いながら、パウラはジリジリと後ずさる。

「お手伝いが終わりましたら、すぐに戻ります……失礼いたします!」

 深くお辞儀をすると、彼女は踵を返して扉へ向かって駆け出した。

 ――ゴトンッ

 重く頑丈な扉が閉まった。室内が一気に静まり返った。

 きっと何かある――マレーナは確信した。

(わたしに言えない何かに、あの子は巻き込まれている)

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