
ジェンダー・ギャップ革命
第6章 異性愛者差別
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つい二時間前まで男を拷問していたありあは、一瞬にして、真逆の立場に転落した。
無人だった独房は、不穏な性臭がこもっていた。常なら気にならない匂いや女達の叫喚が、心臓に氷水を浴びせられたくらいのショックには陥っていたありあに追い打ちをかける。
粗末な寝床に拘束具、ものを見るのに不自由しない程度の照明器具は、前の使い手を失くしてどのくらい経つのか。そしてありあのために手配された拷問官は、ついさっき週末の惚気を聞かせていた同僚だ。
えみるは、たった今、ありあに逮捕状が出ていたことを知った様子だ。咎人を見るなりたぬきに化かされたような顔をして、彼女はありあの制服を剥いで、囚人服を着用させた。
「皇ありあ、二十八歳。職業、看守。男を人間として認識しているばかりか、罪人達の身の上話にとり合ったり、同情したり、慈愛に近い感情で接したりしていた。間違いない?」
「えみるんの知る通りだよ」
「そう、確認も不要か。今日の休み時間だけでも貴女が男を褒めたのは、右手じゃ数えきれないわ。往国英治と交際中の貴女は、彼との将来まで考えていた。勤務態度も日頃の発言を照合すれば、聞き取りに回る必要もない」
「誰が私に令状を出したの?えみるんだって、気に入った女の罪人で楽しんでるよね?」
「女と家畜を一緒にしないで!!」
えみるの一喝が、壁を打った書類の音をかき消した。
彼女の中で、スイッチが入った。
同じ現場で仕事をしたことはほとんどないが、ありあはそれを直感した。
