デリヘル物語
第2章 take2
「いや、だって、わかんないっすよ……なんなのか」
「あはは……あっ、そだ。ところで、お兄さんって彼女いるの?」
「えっ……。今は……いないっす、よ」
「だったら、使ってみなよ、これ……。もし、お兄さんに彼女がいたとしても彼女よりも気持ち良いからさ」
「えっ、どうやって……」
僕は、その時それが何なのか本当に分からなかったんだ。もちろんその使い方も……。
そんな僕を見かねてなのか男は「まあ、今日は、もうこんな時間だから、それ特別に貸してあげるよ。もちろん、まだ誰も使ってないから、安心して」と言ってそのドライヤーではないものを僕に差し出した。
なぜかその時、男に言われるがまま僕は、その白いドライヤーのようなものを受け取ったんだ。
「えっ、でも……」
「また来るから、もし満足してくれたんなら、そん時でいいからさ、買う買わないは――あっ、そう言えば……」男は何かを思い出した様子でキャリーバッグのおもてについたファスナーを開けはじめた。そしてそこから小冊子を一冊取り出すと「はい、これ取説――これに使い方が書いてあるから」と言ってそれも僕に差し出した。
「えっ、あっ、わ、わかりました」と言って僕はそれも受け取った。
「あっ、あとこれも特別にサービスで……」と、男は言いながら今度は週刊誌のような雑誌をまたもやキャリーバッグから取り出すと、それも僕に差し出した。「きみ、なんか、こういうの好きそうだから……ただであげるよ。でも、もしかしたら、まだきみの知らない世界かもしれないけれどね」と男は言って再びにやりと微笑んだ。
「えっ……あ、どうも……」戸惑いながらも僕はそれも受け取った。
「じゃあ、また来るから――今日はそれで楽しんでよ。俺もこれから用事があるし――今日は帰るとするか……また今度よろしく」そう言うと、男はすでにおなじみとなった笑顔を僕に見せると、くるりと向きを変えて階段の方へと歩いていった。
男が階段を降りていく姿を見ながら僕は扉を閉め、部屋の中へと戻った。それからなんとなく男に渡された週刊誌が気になりテキトーにページを開くと――そこには、確かに僕の知らない世界が……あった。
な、な、なんじゅあこりゃあ――
と、僕が言葉にならない悲鳴を上げている時だった。ピンポーーンとチャイムの音が部屋に響き渡った。