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デリヘル物語

第4章 take4



すると谷崎は「いっ、痛い……でも、ちょっと気持ちいい……」と言って、ハッとなりようやく蘇生したかのように呼吸をし始めた。「す、すまない、高橋くん」そう言って谷崎はキャリーバッグのハンドルから手を離すと、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、それを自分の耳たぶに当てた。そのベージュのハンカチは、彼の血で瞬く間に紅くにじみ始めた。


僕は谷崎に尋ねた。「どうしたんすか、谷崎さん――秘孔を突かれたみたいに急に固まっちゃって……なにかあったんすか?」


「いや、ちょっとある話を思い出してしまってね」と谷崎は険しい顔で答えた。


彼の持っているハンカチはまるでもともとそうだったかのように真っ赤に染まっている。


「どんな話なんですか、それは?」


谷崎は真紅のハンカチを両手で折りたたみポケットにしまうと、僕を見て答えた。「高橋くん、もしかしたらもう既に始まっているかもしれないんだ……」


「な、なにがですか?」谷崎のなにやらただならぬ雰囲気に、僕は圧倒されながら尋ねた。


谷崎はゴクリと一回喉を鳴らした。「俺達は、やはり消されるかもしれないんだ、この宇宙に……この世界の宇宙の法則に……」


「えっ、だから、それはなぜなんすか……?ていうか、いったい何を――谷崎さんは、さっき、いったいどんな話を思い出したんですか?」


僕が尋ねると谷崎は一呼吸して、それから意を決したかのように話し始めた。


「これは、俺がだいぶ以前に聞いた話なんだけどな――とある町で少年二人が行方不明になるという事件があったんだ。その後、二人は、警察が総出で捜査したにも関わらず結局見つからなかった。そして、月日が流れて、二十年ほどたったある日、その二人の少年がなんとその町で発見されたんだ。だがな……」


谷崎はそこまで話すと、スーツの内側に手を入れてインナーのポケットから煙草のようなものを取り出すと、さらにその中の一本を口に咥えて火を付けた。そして、それを口に咥えたまま大きく息を吸い込み、吐き出した。


その煙をもろに浴びて、僕はその勢いで思わずむせた。「ゲホッ、ゲホ、ゲホッ……」


僕はとっさに谷崎が右手に持っている煙草?を奪い取ると、すぐさまそれを地面に叩きつけて、さらに足で踏んでその煙草の火を消した。


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