デリヘル物語
第4章 take4
僕は谷崎のその言葉にほっと胸を撫で下ろさずにはいられなかった。確かに、僕は女性と接する事に苦手意識を感じている。でも、だからと言ってトランスジェンダーにシフトチェンジしようなんて気はサラサラなかったんだからな。
「それなら良かったです。それでその、話の続きと言うのは……?」
「ああ、その二人がただならぬ関係だと言う事と、さらにその二人は話さなくも、意思の疎通が取れる、とも噂されていたんだよ、その学校の教師たちの間では――」
「意思の疎通――と言うのは、テレパシーか何かですか?」
「いやいや、テレパシーなんてものじゃなくてね……まあ、意識の共有とでも言うべきだろうか」
「意識の共有……?テレパシーとどう違うんですか、それは……?」
「テレパシーと言うのは、だな。あくまでも会話なんだ……。言葉を使わずに、お互いが念じる事によって出来る――会話なんだ。だけど、その二人の少年はな、お互いがお互いの感じたことや考えた事なんかを、まるで自分の意思のように感じる事が出来た――例えば、片方の少年が何か悲しい事があったなら、もう片方の少年もその彼の悲しさを体感する事が出来たんだよ」
「なっ……」
僕は、谷崎のその話に対して、正直なところ、明確な感想と言うものを彼に伝える事ができずにいた。意識の共有なんてものは、その頃の僕にはとうに理解の範疇を超えていたんだからな。
「でも、なぜそんな事がわかったんですか?」
「それは……」そこで谷崎は言葉を停めた。そして又しても、例の、彼が考えている時のポーズをとった。でも、すぐにそれをやめて僕を見た。「彼らはその『空白の二十年間』の間に二人とも身寄りを無くしてしまってね。発見されてしばらくは児童養護施設に預けられていたんだ。だが彼らのその行動をそこの職員達が気味悪がってしまってね……」
「まあ、それは、そうですよね……」
「だから結局、二人ともとある研究施設に連れていかれたんだ。そして彼らがその謎に満ちた二十年間何をしていたのか、それがその研究施設で明らかになったんだ、彼らは―――」
ピピピピピピピピピピピピ……と、突然、アラーム音が鳴りだした、谷崎の左腕から。