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デリヘル物語

第5章 take4.1〜



それでも、谷崎は容赦なく言った。「そう、残念ながらそう言う事なんだ、高橋くん。そうなってしまったら、ループが終わるわけでは無いんだ。その時間とともに俺達の存在自体が消滅してしまう、かもしれないんだ」


「消滅って、そんな事……」僕は焦りを隠しきれなかった。


「とは言え、あくまでもそれは俺の推測も混ざっている。だから実際にはそうなってみないとわからない事もあるが……」と谷崎が言った。その後、彼の顔がほんの少しだけ強張った気がした。「だけどな、あの時二人の少年は、短い時間の中に二人だけ取り残されてしまってたんだよ――二十年間ものあいだ」


「そ、そんな……。二十年間も……」


その話があまりにも衝撃的で、僕は唖然とする以外に何もできなかったんだ。


そしてその時、二人の異常な関係について茶化してしまった自分に対して憤りさえ感じていた。二十年間もの長い時間、他の誰もが彼らの存在を認識出来ないでいたんだから。少年達には自分の存在を知る人間がたった一人しかいなかったんだから。それはもう、友情などという枠の中には収まりきらないものが二人の間に芽生えたのだとしても、別に何も不思議な事はないんじゃないか。お互いに意思の疎通ができたとしても、むしろ当たり前の事じゃないかって、そう思ったんだ。


でも、その時、そう思ったのと同時にある一つの疑問が、僕の中で芽生えた。それは、今までなぜ聞かなかったのか不思議に思えるほど常に身近にあって、それでいて、いたって素朴で極めて根本的な疑問だ。


谷崎俊樹――この男はいったい何者なんだろう。


「あの、谷崎さん、ところで、その少年達はその後どうなったんですか?」


「その後、と言うのは?」谷崎の表情はわずかだがはっきりと曇っている。


僕は谷崎のその表情に少し気圧されて「いや、まあ、大人になってから……とか、若しくは中学生とか高校生でもいいんですけどね、ざっくりとした感じで気になっただけなんで」と質問の内容を無理やり訂正した。


「高橋くん、彼らは高校生にはなれなかったんだ」と言った谷崎の目に生気はなかった。


「……そ、そうなんすか」やっぱり聞かなければ良かった、とそう思った。


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