デリヘル物語
第5章 take4.1〜
「彼らは、小学校を卒業して、それから中学校に上って程なくして――自ら命を絶ったんだ、同じ場所で、同じ時間に、二人揃ってね……」既に、谷崎の表情はとてもわかりやすいぐらいに曇っていた。そのうえ視線も定まっていない。
「なっ……」僕は、今にも後悔の念に押し潰されてしまいそうだった。
そんな僕の事を察してか、谷崎が言った。「しかし、高橋くん、なにもきみが罪悪感を感じる必要はないんだ。その二人の少年を救ってやれなかったのは――俺なんだからな」
「それは……いったいどう言う――」
僕の言葉を遮るように谷崎は話し始めた。「俺はその頃、彼らが連れていかれた研究施設で働いていたんだ。だから、彼らについてはよく知っている。だが……それなのに俺は――彼らのすぐ近くにいながら、彼らの気持ちをわかってやる事が出来なかったんだ。彼らの苦しみを、わかってやれなかったんだ。あの時、俺がそれを察してやる事が出来たなら……」
その時の谷崎は、自分を責める事に取り憑かれているようにみえた。そうしなければいけないんだ、って、まるで何かに強制されているように、そんな風に自分を責めていた。
「それは違うよ、谷崎さん!」と、その時僕の口から言葉がふっと湧き出た。
谷崎は僕を見た。先程と同様、虚ろな目をしている。「なっ、なにが違うんだい、高橋くん?」
「谷崎さん、あなたが自分を責める必要はないんじゃないっすか……て言うか、彼らがどうして苦しんでた、って思うんですか?」
「そ、それは……」谷崎はそれ以上の言葉を口にしなかった。
だから僕は続けた。「そりゃ、確かに自ら命を絶つ、って言う行為は間違っているかもしれません。もちろん彼らがどう言う理由で命を絶ったか、なんて、まったく分かりませんし、理解だってできません。でも、自分の最愛の人と最後まで……いや、もしかしたらそれからもって可能性もありますよね……。死んだあとの事なんて、誰にも分からないんだから……。それに、それになにより、彼らは最後まで凄く幸せだったかもしれないじゃないっすか。自分の事を自分以上に理解出来る人間が身近にいて、その人と最後まで一緒に居れて……むしろ、僕は、そんな人と出会う事が一度でも出来たんだ、って思うと、なんだか、凄く羨ましい気がして……彼らの事を――」