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デリヘル物語

第5章 take4.1〜



「いや、なんていうか……。高橋くん、これはあくまでも向こうの世界の話なんだけれども……。この場所には、このアパートは既に無くてね。その代わりに現在マンションが建っているんだが……ちなみに、そのマンションは、近所でも有名で……まあ、はっきり言ってしまうとだな。そのマンションは事故物件マンションとして世間に知られているんだ。だから住人もほとんど居なくて――」



「え、それは、そのマンションに幽霊でも出るってことですか?」


「いや、幽霊と言うよりかは、そのマンションの住人がちょくちょく失踪したりな。他には……そこで生活している住人達がよく噂している話、ってのを耳にしたことがあるんだがな。どこからともなくお経のようなものが聞えてくる、とか――」


「そ、それって、まさか……」


「どうしたんだい、高橋くん。なにか思い当たる事でもあるのかい?」と言って谷崎は僕に視線を戻した。


「えっと……それは」


谷崎のその話を聞いて僕は、始めのうちは戸惑っていた。でも、僕だって、今はそうしている余裕が無いことを承知の助だった。だから、意を決して、『悟開』の件を谷崎に話す事にしたんだ。


「はい、実は………………」


僕は谷崎にこれまでの経緯を話した。もちろん、デリヘルの件は省いての事だけども……。


「………………という訳なんすよ」


「なるほどな……そう言う訳か。まあ、俺が思うに、きみのその行為によって、おそらくこの部屋がきみの世界と俺の世界をつなぐソフトスポットになっていた訳なんだろうな」


「この部屋……って、僕の部屋が……ですか?」


「そうだよ、高橋くん。俺がこっちに来たのは、この部屋のチャイムを鳴らしたあの瞬間からだったんだから――この部屋……と言うか、あっちの世界のこの辺りの部屋と言った方が正確だがね。俺はその部屋の玄関の前に着くと、住人がいない事を――」


ピピピピピピピピピピピピッ……。


その時、谷崎の左腕のアラームが鳴り、僕達はそれぞれ自分の腕時計を確認した。


『21:03』


さっきよりも短くなっている――。


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