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デリヘル物語

第5章 take4.1〜



「この世界とよく似た世界……しかも、その三十年後、って」


僕は、少々頭がこんがらがっていた……と言うより、谷崎の言っている事を、鵜呑みにしていいものかどうか判断出来かねていた。それは別に彼を疑っている訳ではなくて、話の内容があまりにも現実離れしていて、とてもじゃないがすぐには受け入れる事が出来なかったんだ。


「まあ似ている、と言っても、文明に関して言えばあっち世界の方がこっちの世界よりも遥かに発達しているがね。それ以外の差異は調べた訳では無いから、俺もよくわからんが――わかっている事と言えば時間軸が三十年ほど異なっている、ってことぐらいなんだ、今のところは」


「いや、でも……時間軸とか、そんな事を急に言われても……わかんないっすよ、僕には」


「まあ高橋くん、きみがそう思うのも無理はない。俺もいろいろと分かりやすく説明してあげたいが、しかし、今はその時間がないんだ」谷崎は時計のようなものを弄りながら言った。「どうにかして、ループが閉じてしまう前に、俺が元いた世界に戻らないと……」


それについてはもっともだと思った。彼の言う通り、今はとにかく時間がない。一刻でも早く彼を元の世界へ戻す事の方が先決なんだ。だから僕は頭を切り換える事にした。


「……でも、どうやって来たんですか、ここへ?」


「いや、来たと言うよりは、気がついたらこの世界にいたんだ――」そう言って谷崎は僕に視線を戻すと、次に僕ではなく僕の部屋の中へと焦点を合わせた。「俺はあの時、とても異様な光景を目にして……ふと、引き寄せられるように、その場所に向かったんだ。すると、きみのこのアパートに辿り着いたわけなんだがな……とは言え、向こうの世界ではこの建物はなくてね……まあ、なんていうか……」そこまで話すと、なにやら谷崎は露骨に話す事をためらい始めた。


僕は彼に尋ねた。「谷崎さん、どうしたんすか?なにか話しにくいことでもあるんですか?」


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