デリヘル物語
第6章 take4.3〜
「わかってます!」と谷崎に答えたが、でも、まだ僕は話す事を躊躇っていた。「……そんな事はわかってますよ、僕だって……。でも……」
今は一刻を争う事態なんだ、それはわかっている。でも、デリヘルを呼ぼうとしていた事を、僕は彼に話せなかったんだ。それがむしろ今回の件の発端と言えば発端になるんだからな。そもそも、僕がすけべな心さえ持たなければ、下心さえ持たなければ……こんな事態にはならなかったんだ。
だから僕はその時、ただ俯いたまま、自分の愚かさを嘆いていたんだ。
すると谷崎が「高橋くん、俺はきみが例の儀式をやっている時にな、計算したんだよ……」そう言って、左腕の時計のような物をいじり始めた。
その腕時計のような物からピッピッと二回ほど音が聞こえて、そのあと、その文字盤のような物から映像が浮かび上がったんだ……いや、映像と言うよりかは、数字の羅列だった。まるでデジタル時計の文字盤に写っている数字が、立体となって彼の腕時計から浮かび上がったんだ。
「高橋くん、タイムリミットはあとこれだけなんだ……」そう言って谷崎は左腕を僕の方に差し出した。
よく見ると、その腕時計からおよそニ十センチほど上に光で形どられた数字が並んでいる。
『08:32:15』
そして、僕はそれを見て呆気に取られながらも、その数字がまるでタイマーのように徐々に少なくなっている事に気が付いたんだ。
『08:31:51』
「谷崎さん、これって……」
当然ながら僕はその時、瞬きする事が出来なかった。
「ああ、高橋くん、俺達に残された時間は、たったのこれだけだ――もう10分も無いんだ」
「そんなぁ……」僕はとてつもない絶望に襲われた。でも、その時、同時にふとある事を思い出した。「谷崎さん、さっき、或いは――って言ってましたよね?って事は、まだそれ以外にもあるんですか、方法が?」
「んっ……そうだな」谷崎もどうやらそこで思い出した様子だった。「確かに、もう一つあるが……それをやるにはおそらく時間が足りない」
「でも、谷崎さん、教えてくださいよ」
「わかった」僕を見て谷崎は頷いた。「もう一つの方法は……この因果を無くす事なんだ」