【お題小説】さいごのねがい(4ページ完結)
第1章 「色の無い世界」
「あなたにとても会いたかった
ネットでここに来ればアナタに会えると言われたの
まさか本当に会えるだなんて!
わたし、アナタが若い時の映画がとても好きだったんだけど、まだわたしは生まれていなかったわ
母がとてもアナタのことが大好きでね
親子そろってアナタを推し活していたの
映画だけじゃないわ、アナタが出演していた無名なドラマはもちろん、いっとき歌を唄っていたでしょう?そのレコードも持っているわ
母とわたし、二世代で揃えた膨大な量のアナタの推し活部屋まであるのよ
もうわかるでしょう?
わたしの初恋の相手はアナタだったわ
ハイスクールではアナタ一色の世界だったの
そんな私も働き始めて、恋をして、初めて彼と恋に落ちて、そのまま結婚したの
彼はアナタへの推し活する私も含めて丸ごと愛してくれたのよ
そんな彼も、先週ついにゾンビになってしまったわ、まだ自宅あたりをふらふらと徘徊しているの
そんなときに、ネットでアナタがここにいるって情報を得たの
もう何も無いと思っていたけど、わたしにはまだアナタが居るわ、と思い返していたら居てもたってもいられなくなっちゃって
何時間もかけてここまで来たの
でもそんなことどうでもいいわ
本当にアナタに会えるなんて……!
もう、世界はゾンビだらけ
たぶんわたしは世界中で最期の人間よ
生きる希望もないし、
生き延びるすべも知らないわ
わたしの人生はここで終わり
アナタに会える事がわたしの最期の目標だったの
アナタはゾンビになってから動けないから人間を襲うことも出来なかったでしょう?
だから最期の人間のわたしをアナタに捧げます」
そう言うと彼女は着ていたワンピースを脱ぎ去ってしまった
瑞々しい若い肢体
素晴らしい!!
そして
うまそう!!
「まだ彼とは離婚届を出してないから、これって浮気になっちゃうのかしら?
でも、いいの
さぁ、わたしを食べて!!」
彼女はボクに抱きついてきた
ボクは彼女の希望を叶えてあげた
したたる液体が乾ききった喉元を通り抜けていく
彼女を口にした瞬間、一瞬だけ世界に色がついた
そうか、あの花束はこんなにも色彩あざやかな花たちだったんだね
こうして世界から人間は消えてしまったんだ
【おしまい】
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