
自殺紳士
第16章 Vol.16:風のふくところ
ここは、風のふくところ
冥府の入口
僕は死ぬ
ここで、僕は死ぬ
ああ・・・死ぬんだ・・・な
フェンスに手をかけたとき
「あのー・・・」
突然声をかけられた
どきりとして僕はフェンスから手を離す
そこには一人の男性が立っていた
黒いスーツに
かろうじて黒ではない濃紺のネクタイを締めて
いつの間にかそこに立っていた
この青年の意図は明らかだ
僕が死ぬのを止めようというのだ
僕の手は震えていた
なんで、こんな時に?
なんでこんなところで?
なんで、なんで、なんで今頃!
今まで誰も助けなかったのに、
やっと決心した今日、このときに
なんでこいつはここに来たんだ!
僕は自分でも不思議な怒りを感じていた
その反面、身体はまるで糸が切れた操り人形のように
力を失って地べたに座り込んでいた
なんて、なんて情けない・・・
死ぬことさえできない
胸がつかえて、苦しくて
体中の臓器を吐き出してしまいたい
俯いて、震えた僕の顔の近くに
青年が、手を差し伸べていた
顔を上げると
目の前にいる
彼の視線は、僕のそれと同じところにあった
「良かった・・・間に合って
死なないでくれて
生きててくれて
良かった・・・」
それは、ほんの一言
風のような
一言
でも、誰にも言われたことがない
一番、言ってほしかった
一言だった
冥府の入口
僕は死ぬ
ここで、僕は死ぬ
ああ・・・死ぬんだ・・・な
フェンスに手をかけたとき
「あのー・・・」
突然声をかけられた
どきりとして僕はフェンスから手を離す
そこには一人の男性が立っていた
黒いスーツに
かろうじて黒ではない濃紺のネクタイを締めて
いつの間にかそこに立っていた
この青年の意図は明らかだ
僕が死ぬのを止めようというのだ
僕の手は震えていた
なんで、こんな時に?
なんでこんなところで?
なんで、なんで、なんで今頃!
今まで誰も助けなかったのに、
やっと決心した今日、このときに
なんでこいつはここに来たんだ!
僕は自分でも不思議な怒りを感じていた
その反面、身体はまるで糸が切れた操り人形のように
力を失って地べたに座り込んでいた
なんて、なんて情けない・・・
死ぬことさえできない
胸がつかえて、苦しくて
体中の臓器を吐き出してしまいたい
俯いて、震えた僕の顔の近くに
青年が、手を差し伸べていた
顔を上げると
目の前にいる
彼の視線は、僕のそれと同じところにあった
「良かった・・・間に合って
死なないでくれて
生きててくれて
良かった・・・」
それは、ほんの一言
風のような
一言
でも、誰にも言われたことがない
一番、言ってほしかった
一言だった
