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アダージョ・カンタービレ

第5章 ごめんね

朝は送り出してくれていた、夜は迎えにきてくれていた、玄関先での妻の表情がかげる。

俺の背中で、ため息を吐く。


あ………俺、
気づいていなかった
気づこうとしなかった
きみを大切にできてなかったことに

きみとの生活を続けるために、金を稼ごうって、仕事のことばかりにとらわれて

自分の誓いもきみの心も見失っていた

いつからか、夜は拒まれ、家庭内別居みたいな毎日で。

なんで俺が、こんな目にあわなきゃなんないんだ?
家族のためにこんなに頑張っているのに
もっと優しくしてくれたっていいじゃないか……

その思いは、俺だけじゃなかったんだ。


結婚後、静かに、だけど確実に崩れていく様子を眺め、今更ながら振りかえる。

妻が作ってくれたお弁当に、俺はごちそうさまを言えてたかな?
髪型を変えた妻に、似合ってるよって言った?
ほかにもほかにも……。

たまに、小さなスイーツを渡して、受け取ってくれた妻に安心して、
それでいいんだって思ってた。

ごめんね。
いいはずなかったよな。。

そのうちに、俺はなにもない場所で転ぶようになる。
ああ、発症したんだ。

みるみるうちに、ベッドの上。

これが俺のこれまでの人生……。

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