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コーヒーブレイク

第5章 からたちの花が咲いたよ

「からたちのそばでないたよ
みんなみんなやさしかったよ」

昔から不思議だった。
どうして、優しくされて、喜ぶのではなく、泣くのか。

いま、少し、わかった。

父親は、たくさんの通夜振舞い(会葬者に提供する夜食。寿司などのオードブル)を分けてくれた。

「泣くなとは言わないよ。ただし、泣くのなら、これを全部食べたあとにしなさい」

思いがけないおみやげと香典返しを持って家に帰ると、意外な人が待っていた。

母だ。

父の事件は全国ニュースになっていた。
こちらの住所は変わっていないのだから、帰ってきたことに不思議はなかったが──

なんて言えばいい?

この、責任を放棄した女に。

この、もう一人の加害者に。

何も言えなかった。

…この人に罪はありますか…

父親の声が聞こえたような気がしたからかもしれない。

ただ、「おかえり、お母さん」とだけ。

母は泣き崩れた。
謝りながら、泣いた。

私は、約束があるから、泣かなかったけど。
もちろん、泣きたかった。

「からたちのそばでないたよ
みんなみんなやさしかったよ」

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