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スイーツ・スイーツ

第6章 終章

修学旅行の第一の目的地は長崎。朝一番の便で、まずは羽田空港から飛ぶ。

しかし、天候が悪い。びちびちと雨が機体に当たっている。

隣の席で機窓に張りついている鏡子も鬱陶しい。ひたすらうるさい。

飛行機マニアだった。

鏡子によれば、RJTT(羽田空港)からRJFU(長崎空港)まで運んでくれるのは、ボーイングB737-800/JA332Jらしい。わけがわからない。

飛行機が動き出した。「定刻」と、鏡子がつぶやいた。

トーイングトラクタという車が、70トンぐらいの機体をバックさせている(らしい)。機体の向きが90゜変わり、停止。それから誘導路を自走(タキシングと言うらしい)し、滑走路16Lに向かうことになる(らしい)。

鏡子は、右主翼を観察し、エルロンとかフラップとか、ぶつぶつ言っている。

加速が始まった。
怖いくらいのスピードだった。

「ヴイ・ワン」

また鏡子がなんか言った。

V1。離陸決心速度。
このスピードに達したら、滑走路で停止するほうが危険ということ(らしい)。たとえば片方のエンジンが止まっていても、飛び上がらなければならないわけだ。

機体が浮き上がった。さらに上昇。
地上の工作物を不自然な角度で抜き去っていく。

すぐに周囲が真っ白になった。切り裂く雲の中に、大気の流れがあるのがわかる。

機体が大きく揺れた。
と言うより、落ちた。
尻餅をつくように、ドーンと。
女子高生複数の悲鳴があがる。

「序の口、序の口」

余裕の笑みの鏡子だった。


小牧空港が見えた、と鏡子は言う。
揺れも収まった。

そろそろ、語ろうか。

――
お姉ちゃんは完全に回復したわけではなかった。
走っても記録は出せないことは自分でわかっていた。

中途半端な回復だからこそ、埋ずみ火のように恨みが醸成されたのだろう。
瞳の宣言が無意識下で引き金となったのかは、誰にもわからない。

そして、なぜ瞳が敵討ち宣言をしたのか、という最大の謎は、ついに解明できなかった。

もう瞳は、この世の人ではないのだ。

ある難病で余命宣告を受けたあと、最後の意地で滝見女子高に入学したようだ。

そして、自分が起こした事件が終息した翌日には入院し、数日で容体が急変して、他界した。

あまりに急な展開だった。

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