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スイーツ・スイーツ

第5章 真犯人はここにいる

鏡子のキャミなんて、初めて見たな。

――いやいや、違う。そうじゃなくて。

この違和感は何なのだろう。なぜか鏡子から贖罪の真剣さが感じられないのだ。

映画女優がシナリオ通りに脱いでいるような──

その時だった。

ドアがノックされて、入ってきたのは、松葉杖のお姉ちゃんだった。

お姉ちゃんは、まず下着姿の鏡子に驚き、それから、私に深々と頭を下げた。

無言だったが、私にもわかってしまった。

真犯人は、お姉ちゃんだ。

理恵子先輩と鏡子は、瞳が犯人でないなら、お姉ちゃん――佳奈恵先輩しか犯人になりえないと確信していたのだ。

そのうえで、鏡子は犯人になってやることにした。

私と佳奈恵先輩の関係を終わらせたくなかったから――。

私と鏡子の関係が終わるというリスクは考えないのか。

「すべては、なるようにしか、ならない」

制服を着ていきながら鏡子は言った。

おさまらなかったのは瞳で、姉として慕っていた佳奈恵先輩を許せず、
素手で一発だけ、“姉”の頬を打った。
(濡れ衣を着せられた恨みは含まれていないようだった。ま、自業自得だし)

それでも、お姉ちゃんは無言だった。

ここで、同じく無言だった菫ちゃんが、「あれっ」と声をあげた。

「松山先輩、松葉杖ついてますよね。そんなんで、重たい入江先輩を突き飛ばせるんですか?」

重たくて悪かったな。

でも、それは正しい指摘だった。
思い出した。
確かに私は、“両手で”突かれた。

松葉杖のお姉ちゃんには、不可能犯罪のはずだ。

まさか、お姉ちゃんも犯人じゃないっていうんじゃ……。

「突き飛ばせるのよ。だって」

そう言って、お姉ちゃんは、松葉杖を椅子に立てかけ、乃木坂だか欅坂だかのナンバーを踊った。
きれいなターンにスカートが広がる。

……お姉ちゃん、治ってたんだ。

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