
スイーツ・スイーツ
第3章 攻防戦の果てに
なにこれおいしい。
菫ちゃんの手作りシフォンケーキを放課後の図書準備室でご馳走になった。
実は、このケーキも風紀検査で没収となり、放課後ようやく返還されたのだ。
しかし、冷蔵庫で保管されていたのだから、かえってラッキーだった。
「瞳の分が余りますね」
その1個は、食い意地のはった鏡子に行くだろう。
彼女は、辞書にダイエットという単語がない女だが、スタイルはいい。まったく憎らし……羨ましい。
などと考えつつ、ココアに口をつけたところで、ノックの音がした。
入ってきたのは、松山佳奈恵先輩だった。
「お姉ちゃん」
思わず、言ってしまった。
「お姉ちゃん?」
何も知らない菫ちゃんが、ついオウム返しに言ってしまう。
文芸部を訪ねてくる松葉杖の3年生となれば、
初対面でも、このボブヘアーの長身が松山佳奈恵であることは容易に推測できるだろう。
同時に、私と姉妹であるはずがないことも。
「あ、違うよ。でも、若葉は私をそう呼ぶの」
自己紹介よりも先に、お姉ちゃんが注釈した。
「そんなことより、瞳はどこ?」
えっ、なんの話?
「ま、座ってから、落ち着いて話そう」
理恵子部長が言った。ケーキをほおばったままで。
◆
思いがけないシフォンケーキに驚く、お姉ちゃん。
「瞳ちゃんが行方不明なの?」
錯綜する情報を、理恵子部長が整理しようとする。
「ケータイが圏外で連絡がとれないだけだけど、どうもおかしいのよ。だから、家の電話にもかけたんだけど……」
「どうだった?」
「もっとおかしいの。家族ぐるみで何か隠してるみたいで」
「もう、警察に捕まってるとか」
鏡子が口をはさむ。
「そうかもしれない」
笑えないな。
「でも、欠席の連絡は職員室に入ってますよ」
瞳ちゃんの軌道修正。
「とにかく、瞳がやろうとしていることは犯罪よ。
若葉が怪我して、なんで私が喜ばなきゃならないの?
意味がないわ。絶対にやめさせないと」
ありがとう、お姉ちゃん。
「あのー」
おずおずと菫が手をあげる。
「とっても失礼なことを訊きます。怒らないでくださいね……松山先輩、ほんとうに入江先輩を恨んでないんですか?
私としては、ここをはっきりさせないと、誰の味方もできないんです」
瞳ちゃん、あなた、いい子だわ。
でも、その質問には、私が中学生のうちに回答を得ているのよね。
菫ちゃんの手作りシフォンケーキを放課後の図書準備室でご馳走になった。
実は、このケーキも風紀検査で没収となり、放課後ようやく返還されたのだ。
しかし、冷蔵庫で保管されていたのだから、かえってラッキーだった。
「瞳の分が余りますね」
その1個は、食い意地のはった鏡子に行くだろう。
彼女は、辞書にダイエットという単語がない女だが、スタイルはいい。まったく憎らし……羨ましい。
などと考えつつ、ココアに口をつけたところで、ノックの音がした。
入ってきたのは、松山佳奈恵先輩だった。
「お姉ちゃん」
思わず、言ってしまった。
「お姉ちゃん?」
何も知らない菫ちゃんが、ついオウム返しに言ってしまう。
文芸部を訪ねてくる松葉杖の3年生となれば、
初対面でも、このボブヘアーの長身が松山佳奈恵であることは容易に推測できるだろう。
同時に、私と姉妹であるはずがないことも。
「あ、違うよ。でも、若葉は私をそう呼ぶの」
自己紹介よりも先に、お姉ちゃんが注釈した。
「そんなことより、瞳はどこ?」
えっ、なんの話?
「ま、座ってから、落ち着いて話そう」
理恵子部長が言った。ケーキをほおばったままで。
◆
思いがけないシフォンケーキに驚く、お姉ちゃん。
「瞳ちゃんが行方不明なの?」
錯綜する情報を、理恵子部長が整理しようとする。
「ケータイが圏外で連絡がとれないだけだけど、どうもおかしいのよ。だから、家の電話にもかけたんだけど……」
「どうだった?」
「もっとおかしいの。家族ぐるみで何か隠してるみたいで」
「もう、警察に捕まってるとか」
鏡子が口をはさむ。
「そうかもしれない」
笑えないな。
「でも、欠席の連絡は職員室に入ってますよ」
瞳ちゃんの軌道修正。
「とにかく、瞳がやろうとしていることは犯罪よ。
若葉が怪我して、なんで私が喜ばなきゃならないの?
意味がないわ。絶対にやめさせないと」
ありがとう、お姉ちゃん。
「あのー」
おずおずと菫が手をあげる。
「とっても失礼なことを訊きます。怒らないでくださいね……松山先輩、ほんとうに入江先輩を恨んでないんですか?
私としては、ここをはっきりさせないと、誰の味方もできないんです」
瞳ちゃん、あなた、いい子だわ。
でも、その質問には、私が中学生のうちに回答を得ているのよね。
