テキストサイズ

スイーツ・スイーツ

第3章 攻防戦の果てに

なにこれおいしい。

菫ちゃんの手作りシフォンケーキを放課後の図書準備室でご馳走になった。

実は、このケーキも風紀検査で没収となり、放課後ようやく返還されたのだ。
しかし、冷蔵庫で保管されていたのだから、かえってラッキーだった。

「瞳の分が余りますね」

その1個は、食い意地のはった鏡子に行くだろう。
彼女は、辞書にダイエットという単語がない女だが、スタイルはいい。まったく憎らし……羨ましい。

などと考えつつ、ココアに口をつけたところで、ノックの音がした。
入ってきたのは、松山佳奈恵先輩だった。

「お姉ちゃん」
思わず、言ってしまった。

「お姉ちゃん?」
何も知らない菫ちゃんが、ついオウム返しに言ってしまう。

文芸部を訪ねてくる松葉杖の3年生となれば、
初対面でも、このボブヘアーの長身が松山佳奈恵であることは容易に推測できるだろう。
同時に、私と姉妹であるはずがないことも。

「あ、違うよ。でも、若葉は私をそう呼ぶの」

自己紹介よりも先に、お姉ちゃんが注釈した。

「そんなことより、瞳はどこ?」

えっ、なんの話?

「ま、座ってから、落ち着いて話そう」

理恵子部長が言った。ケーキをほおばったままで。

思いがけないシフォンケーキに驚く、お姉ちゃん。

「瞳ちゃんが行方不明なの?」
錯綜する情報を、理恵子部長が整理しようとする。

「ケータイが圏外で連絡がとれないだけだけど、どうもおかしいのよ。だから、家の電話にもかけたんだけど……」
「どうだった?」
「もっとおかしいの。家族ぐるみで何か隠してるみたいで」
「もう、警察に捕まってるとか」
鏡子が口をはさむ。

「そうかもしれない」

笑えないな。

「でも、欠席の連絡は職員室に入ってますよ」
瞳ちゃんの軌道修正。

「とにかく、瞳がやろうとしていることは犯罪よ。
若葉が怪我して、なんで私が喜ばなきゃならないの?
意味がないわ。絶対にやめさせないと」

ありがとう、お姉ちゃん。

「あのー」
おずおずと菫が手をあげる。

「とっても失礼なことを訊きます。怒らないでくださいね……松山先輩、ほんとうに入江先輩を恨んでないんですか?
私としては、ここをはっきりさせないと、誰の味方もできないんです」

瞳ちゃん、あなた、いい子だわ。
でも、その質問には、私が中学生のうちに回答を得ているのよね。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ