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月に囚われしもの【3ページ短編】

第1章 「彼女を追って」


女は闇夜に紛れひとりで暗い夜道を歩いていた


女に気づかれぬよう恋人アランが後をつけている


今夜は雲が多く、月の明かりも届かない

そのおかげかアランの追跡は彼女に気づかれていないようだ


彼女は村外れの廃墟となっている敷地へ向かう


そこは数百年前、ここの領地を治めていた領主の住まいであった


すでに家系は没落している



鎖で封印されているはずなのだが、女は悠々と中へ入っていってしまった


後をつけていたアランはそこで彼女を見失ってしまった


アランは彼女の両親から夢遊病のことを聞かされていた


年老いた彼女の両親は結婚前の娘をとても心配している


なんとか門を乗り越えてアランも広い敷地に入っていく


門の向こう側も森のような場所だ
建物も見えない


ランプを片手に森を進む


やがて一軒の大きな屋敷にたどり着く


そこはお屋敷というよりまるで城のようだった


廃墟のような外観とは異なり、中に入ると綺麗な調度品がいくつも飾られており、まるで今も誰かが暮らしているかのように手入れが行き届いているので驚いた


一階、二階、三階と歩いてまわっていく
どこにも彼女の姿がない


4階のとある一室、
大きなベッドの上で、
彼女は眠っていた


アランは彼女を彼女に近付き、声をかけるが反応がない
眠っているのか、それとも意識を失っているのだろうか



そこへ突然、4階のバルコニーの外から年老いた男が飛び込んできた!



部屋の中へ入り、アランと対峙する



アランは彼の冷たい視線に目を合わせると突然、手足が痺れ感覚を失ってしまった!


老人は横たわる彼女の手の甲に軽く口を付けて上品な挨拶をする


すると老人の肌に艶がうまれ、茶色がかった肌の色がみるまに青白くなっていく


老人はあっという間に若い紳士へ変貌した!



バケモノ!とアランは叫ぼうとするが声が出ない



美しい青年の姿となった紳士は彼女を抱きかかえるとダンスをするかのように身体を支え起こしてやる



すると女の意識がゆっくりと戻り、紳士の美しくも妖しい顔を見てうっとりとしてしまう


アランは彼女の名前を呼びたかったが、やはり声が出ない


紳士が女に声をかける


「月に一度、満月の夜を待ち遠しかったぞ」



「わたしもです、伯爵様」

女の頬は上気した

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