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My Godness~俺の女神~

第6章 ♯Conflict(葛藤)♯

 ♯Conflict(葛藤)♯

 実里は周囲に判らないように、そっと溜息をついた。また腰が痛み始めたので、拳を作ってトントンと軽く叩く。
「入倉さん、疲れたのなら、少し休憩室で休んで来たら?」
 隣のレジから恰幅の良い四十代半ばの女性が声をかけてくれた。おなじパート仲間の新垣さんだ。
「ありがとうございます。大丈夫ですから」
 実里は微笑み、自分を叱咤した。
―いけない、こんなことでは駄目でしょ。
 会社を辞職してから、もう五ヶ月になる。
 実里の腹の子は順調に発育し、既に妊娠八ヶ月に入った。大きなお腹でのパート仕事はかなり大変だけれど、生まれてくる子どもと自分のためにも頑張っている。
 あれからの日々は、語り尽くせないほど困難を極めた。まず、実里の両親の説得がひと苦労だった。
 妊娠を告げると、父は激怒し、実里は頬を打たれた。
―馬鹿者ッ。一体、どこの男とそんなふしだらな真似をしでかしたんだ。今すぐ、そいつを連れてこい。二人並べて、ぶん殴ってやる。
 予想通りの反応だった。
 実里が正座したまま何も言わないのを見て、父の怒りはますますエスカレートした。
―相手は潤平君か?
 父にしてみれば、そうであって欲しいと一縷の望みを賭けての問いであったに違いない。
 しかし、実里は、これにはきっぱりと否定した。
―違います。潤平さんとは、もう別れたの。お腹の赤ちゃんの父親はあの男ではないわ。
 その言葉に、父は完全に切れてしまった。
―何という呆れた娘だ。そんな有様だから、潤平君にも早々と愛想を尽かされたんだろう。
 もう一度、平手が飛んでこようとするのを、脇から母が泣いて止めた。
―止めて下さい。この娘(こ)の身体は普通じゃないって、お父さんも知ってるんでしょう。お腹に子どものいる娘を殴ったりして、万が一のことがあったら、どうするんですか?
 結婚してから二十八年間、一度も父に逆らったことのない母が泣きながら父に断固として刃向かったのだ。
 結局、父は折れた。折れざるを得なかったのだ。

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