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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第1章 柳家の娘

 誰もがその光王という少年がいつ、どこから来たのかを知らない。ただ、気が付いたときには、光王は都の身寄りのない、行き場を持たない孤児たちを集め、その首領格にのし上がっていた。
 光王は男気のある質らしく、自分の稼いだ金で気前よく手下たちを養ってやるので、手下たちもまた彼のために生命賭けで従うと言われている。噂を聞きつけた浮浪児が次々と光王の許に集まり、最初は数人だった光王の集団はいつしか十数人に膨れ上がっていた。
 もっとも、光王はいつも単独で行動しているので、果たして、彼が本当にそんな集団のリーダーなのかどうかを知る者はいない。光王は彼の言うとおり、小間物売りを生業(なりわい)としている。それも、この露天商のように町中に店を出すことは滅多となく、大抵、商売物の詰まった箱を背に負い、町中を歩きながら品を売ってゆく、いわゆる行商人である。
 話では、光王はまだ十七、八だと聞いているが、今の男はどう見ても、二十歳は超えているように見える。町中にはしょっちゅう姿を見せるが、彼がどこに住まいしているかすら、ろくに知る者はいないのだ。まだ若い癖に、やたらと存在感のある男で、闇の世界、つまり、陽の当たる道を歩けない者たちとも深い関わりがあり、その世界にも顔がきくといわれている底の知れない怖ろしい男なのだ。
「それにしても、男にしておくのは勿体ないほどの器量だな。あの容姿じゃア、都中の女があいつに色目を使うってのも満更、嘘じゃねえかもなあ」
 光王についてのもう一つ風評。それは、〝稀代の女タラシ〟である。それについても、まだ十三にもならない中から、十歳以上年上の妓生にしこたま貢がせていたとか、真実かどうか判らない武勇伝が伝わっている。何しろあの天界から降り立った天人とも見紛うかのような美貌のお陰で、彼にその気はなくとも、女の方が放ってはおかないらしい。
 彼が黙っていても、光王に貢ぎたがる女は後を絶たないし、一夜限りでも良いから抱かれたいという女はごまんといるそうな。
「神さまは不公平だな。何で、あんな奴がモテまくるほどの容姿に恵まれてるんだ? 俺はこのとおりのちんちくりんだしなァ」
 露天商は呟くと、小さくかぶりを振る。

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