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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第9章 哀しい誤解

 ずっとずっと、こうして母に甘えられるのを夢見ていた幼い日々。今、漸く、あの日の憧れと夢が現実になったのだ。
 春泉が泣き止むのを待って、チェギョンが訊ねてきた。
「五月の初めにあなたを訪ねた時、何かあるなとは思っていたのですよ。私が夫婦仲は順調かと訊いたときのあなたの戸惑いもそうだったし、何より閨の話を持ち出した時、あなたの恥ずかしがり方は少し妙だった。新婚まもない若い娘のことゆえ、恥ずかしがるのは当然としても、あなたの場合はまだ嫁ぐ前の何も知らない娘が見せるような反応だったわ。単刀直入に訊くけれど、春泉、あなたはまだ秀龍さまと本当の夫婦ではないのね?」
 春泉はかすかに頷いた。
「―ごめんなさい、お母さま」
「謝るような話ではないでしょう。私はこれまで、あまりにもあなたから遠ざかっていて、母親らしいことは何一つしてあげていない。本当なら、男女の事は、母親が嫁ぐ前に娘に教えるべきものなのです。あなたは多分、何も知らないから、余計に怖かったのだと思うの。秀龍さまがあなたを怖い眼で見ていたというのは、恐らくは、ずっとご自分を抑えていたからでしょうね。一生懸命にじっと我慢していたから、つい、そんな難しいお顔になってしまったのでしょう」
「自分を抑える?」
 きょとんとした顔の春泉に、チェギョンが優しい笑みを浮かべた。
「そのうちに判りますよ」
 更に、チェギョンは春泉に質問を続けた。
「あなたが秀龍さまを受け容れられなかったのは、他にも理由があるのかしら?」
 その問いには、春泉はすぐに応えられなかった。できれば、これは母には言いたくない。
 だが、母の眼は、一切の嘘を許さないと言っているかのようだ。
 春泉は母から眼を逸らした。
「お母さま。私、祝言の夜、秀龍さまにお願いしたのです。ずっと形だけの妻でいさせて下さいと申し上げました」
「どうして、そんなことを?」
「私がそのようなお願いをしたのは、お母さまのように、いいえ、お父さまとお母さまのようにはなりたくなかったからです」
「今のあなたの話をもう少し詳しく話してくれると、嬉しいわ」
「―申し上げても良いのでしょうか?」
 不安そうな表情の春泉に、チェギョンは大きく頷いた。

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