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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第13章 陽溜まりの猫

陽溜まりの猫
 
 四月初旬のやわらかな陽差しが床に光の渦を作っている。その光の輪の中で、真っ白な犬と小さな赤ちゃん猫が寄り添い合っていた。
 犬は雪のように真っ白な毛並みが美しく、仔猫は、やっと生後み月を経過したところだ。そう、この犬は春泉が数日前に道端で拾ってきた、あの野良犬であった。
 あれから春泉はこの犬を手ずから綺麗に洗ってやり、ぼさぼさだった毛並みも梳いて、整えてやった。身綺麗にしてやると、なかなかどうして薄汚れていたときの面影は微塵もなく、美しい犬である。まだ痩せてはいるものの、食事はきちんと食べているから、その中に肉もついてくるだろう。
 その白犬に甘えるようにじゃれついている仔猫は小虎に瓜二つ。薄い灰色に白の縞模様、翡翠色の瞳まで、そっくりそのまま父親似だ。
 この仔猫こそ、小虎と素花の間に生まれた仔猫なのだ。み月前、素花は四匹の仔猫を生み落としたが、そのうちの三匹はそれぞれ別の家に貰われてゆき、この一匹だけが皇氏の屋敷で飼われることになった。
 むろん、事の次第を知った姑芙蓉の機嫌はすごぶる悪かった。しかし、今回も秀龍の取りなしで、何とか許して貰えたのだ。
 一抹の罪悪感はあったものの、まさか、内緒で町に出て、拾った犬だとも言えず、屋敷の門前をうろついていたのを拾ってやったのだと苦しい言い訳をすることになった。
 もちろん―、オクタンは春泉がこっそりと屋敷を抜け出て、この犬を拾ってきたのだと知っている。が、わざわざ秀龍に事実を告げて、夫婦仲に水を差すようなことをオクタンがするはずもない。
 小虎そっくりの仔猫は母親に甘えるようにしきりに纏わりつき、犬の方も我が子に対するように時々、仔猫の灰色の毛並みを舐めてやっている。少し離れた場所から、小虎が座って仔猫と犬を見守っている。
春泉は、その心和む光景を微笑ましく見つめた。
 屋敷に連れ帰った白犬を、彼女は〝長春(チヤンチユン)〟と名付けた。オクタンなどは
―何も若奥さまのお名前の一字を与えなくてもよろしいのに。
 と、犬の名に春泉が自分の名の一字を入れたことに随分と不満そうだった。

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