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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第13章 陽溜まりの猫

 しかし、春泉はきっぱりと言い切った。
「いえ、秀龍さまの知り合いというのなら、逢うわ。そうね、まさかここに通すわけにもゆかないし、内々のお客さまをお通しする部屋にご案内してちょうだい」
 オクタンは言われたように門前に引き返していったが、しばらくして戻ってきた。
「それが―、若奥さま。その女人は門前で良いと言うのです。ほんの少し立ち話をするだけで構わないからと言い張るものでして」
 春泉はやむなく立ち上がった。
 部屋を出て階を降り、絹の靴を履いて庭を歩いてゆく。その後ろからオクタンが小走りについてきた。
「若旦那さまのお知り合いだというのにこんなことを申し上げては何ですが、嫌な感じの女ですよ。見かけは殊勝にふるまっているんですけど、何だか眼付きが小生意気で、挑戦的っていうか、まるで挑むようにこっちを睨みつけてくるんです」
 他人の悪口など滅多と口にしないオクタンの言葉に、春泉はふと違和感を憶えた。
 人の好いオクタンの心証をここまで悪くする女とは、一体、どのような者なのだろう。
 しかも、そんな女が秀龍の知り合いだと広言するのだ。到底、ただ事であるとは思えなかった。
 庭を突っ切ってゆくと、門前に佇む一人の女の姿が見えた。女にしては身の丈は高い方だろう。外套の上からでも、ほっそりとした立ち姿が判る。
外套を着て、顔を隠そうとするかのように目深に頭巾(フード)を被っている。
「どういうご用件でしょうか?」
 春泉もまた挨拶も前置きもなしに切り出した。
 相手もまた春泉に〝奥さまですか?〟と訊ねもしなかった。
「私、この間、皇都事さまと一夜をご一緒しました」
「―」
 春泉が押し黙ったのを見て、相手の女が勝ち誇ったように言う。
「ひと月ほど前のことになりますわ。私は後宮で女官としてお仕えしている者ですが、勤めを終えて自室に戻る途中、宮城内で皇都事さまにお逢いしましたの。それから二人で私の部屋にゆき、明け方まで二人きりで過ごしました」
「それは、どういう意味でしょうか? あなたが何をおっしゃりたいのか私にはちっとも判りません」

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