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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「もう良い。そなたこそ、自分を責めないでくれ。元はといえば、春泉に誤解されてしまうような行いを取った私の方が悪い。英真に言われたよ。そんなときは、幾ら女に引き止められても、きっぱりと断って、誰か別の女官を代わりに呼ぶべきだったと。同情で中途半端に拘わってしまうから、相手に期待させて、厄介なことになるのだと説教された。その気もないのに気を持たせるのは、かえって相手にも失礼なのだとさんざんな言われ様だったな」
 秀龍は声を上げて笑った。
「あいつは、あのとおり、黙って立っていても、女の方が寄ってくる外見だろう? ゆえに、私などより、よほど経験豊かなんだ。英真から見れば、私なんか、嘴の黄色い雛(ひよこ)程度のものだろうよ」
 春泉は秀龍をじいっと見つめていたが、やがて、微笑む。
「でも、私は旦那さまのそんなところが好きです。どうしようもないくらいお優しい皇秀龍さまをお慕いしています」
「春泉、そ、それは」
 秀龍の顔が赤らんだ。 
 愛妻に直截に想いを告げられ、嬉しくてならないらしい。大いに照れているようで、痒くもないのに、しきりに人さし指で首の後ろをかいていた。
 ウォッホン。秀龍が盛大な咳払いをする。
 自分に都合の悪いときにこうやって曖昧にしてしまおうとするのは、秀龍の癖なのだ。
 英真に言わせれば、あまりにも判り易すぎる男、ということになる。
「ところで、春泉。そなたも何か話したいことがあると言っていたね」
 唐突に話を振られ、春泉は頷いた。
「このようなときに申し上げるのもどうかと思うですが、どうやら、身籠もったらしいのです」
 へ、と、秀龍がいささか間の抜けた声を出した。
「春泉、今、何と、何と申したのだ?」
 惚けたように問い返す良人を見上げ、春泉はもう一度、ゆっくりと繰り返す。
「私、懐妊したようにございます」
「懐―妊、つまり子を授かったということなのだな」
 と、至極当たり前のことを言う。
「はい、旦那さま」
 刹那、春泉の身体が持ち上げられた。視界がユラリと揺れ、春泉がキャッと悲鳴を上げるのにも構わず、秀龍は妻を抱きかかえたまま、その場を走り回った。

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