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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

 何をしているのかと春泉も良人の後を追った。
 開いた扉の向こうには、夜の庭がひろがっている。
 濃い紅色の枝垂れ桜が今を盛りと咲き誇っているのが夜目にもはっきりと見えた。昨夜二人で見た桜ヶ丘の薄紅色の桜とはまるで違う。あちらが清楚で慎ましい少女なら、こちらはさしずめ、妖艶な色香を放つ女人のような艶な佇まいだ。
 重たげに枝垂れてい紅桜を眺め、秀龍がポツリと洩らす。
「桜もそろそろ終わりだな」
「はい」
 春泉が慎ましく応える。
 その時、ニャーと甘えたような鳴き声が聞こえ、春泉は眼を瞠った。
 見れば、枝垂れ桜の下で小虎と長春が仲好く並んで座っている。
 蒼白い月光が寄り添い合っている三匹をそこだけぽっかりと照らし出していた。
 二匹の間に、仔猫がちょこんと陣取り、その三匹の様子はさながら仲睦まじい親子のようだ。
 愕くべきことに、長春は素花が生んだ仔猫を母親代わりとなって育てていた。
 犬が仔猫を育てるという話はあまり聞いたことはないけれど、長春も我が子を亡くしたばかりだったから、母親に見棄てられた仔猫を見て他人事とは思えなかったのかもしれない。
 長春は実に根気強く悪戯盛りの仔猫に接している。その慈愛をもって育児に奮戦する様は、はっきり言って素花が以前に仔猫を生んで育てていた姿よりも、はるかに母親らしかった。
 前回の出産の時、すべての仔猫は生後ひと月で他家に貰われていったものの、それまではすべて素花が面倒を見ていたのである。
 素花は大人しい気性の猫ではあったが、どうやら、妻や母親には向いていなかったようだ。普通、幾ら動物でも子どもを生めば、本能的に子どもが独り立ちするまでは面倒を見るものだ。しかし、素花は自分が生んだ仔猫にも愛情らしい愛情は感じていなかったように見えた。
 長春がどれくらいの歳なのかは判らないが、秀龍に言わせれば、恐らく小虎とほぼ同じくらいではないかということだ。
 ニャーと小虎がまた甘えた声を上げる。

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