
たまゆらの棘
第1章 幼き日々
魂綺 倫、桜美 麗、十歳。花柳流の日本舞踊の稽古仲間だ。麗は美しい少女であったが、日夜、自分よりも師匠に可愛いがられる少年の倫に嫉妬を抱き、倫に対して何かと意地悪をしていた。それは師匠がくれたお菓子を分けてくれなかったりという幼いものから、わざと倫の浴衣にこっそりジュースをこぼしたり、倫の扇子を稽古前に隠したりという少女独特の陰湿なものもあった。倫は少年でありながら一種、独特の色気を放っていたため、周囲の母親たちからは随分と可愛いがられていたのも麗が倫を気に入らなかった理由だろう。また踊りの筋も倫は軍を抜いていた。だが倫は麗の仕打ちに一切刃向かうことをしない少年だった。単に内気と言うのでなく、プライドが高かったのだ。やられたままいつも怒られるのは倫。それでも師匠が倫を可愛がったのもいじめの助長になったのだろう。どんなにいじめられても倫は泣かなかった。それは父親に常に言われていたことをこどもなりに守っていたのだ。
