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たまゆらの棘

第2章 燃ゆる日々

「倫。」藤原は倫をソファに座らせた。
「何があった?」静かに藤原は聞いた。
「…何でもない…」倫は正直、動揺していた。頭の中は真っ白だった。何も考えられなかった。ただ、ただ、ママの話しが何故かショックだった。
「酒でも飲むか?」藤原は冷蔵庫から白ワインを出したが、倫はいらないと言った。
「藤原…もう寝る。」倫は言った。倫はベッドの中で藤原に背をむけた。
「倫…」藤原は何が原因とも解らずとも倫を慰めたかった。倫の髪を撫で、その髪にキスをしたが、倫は動じなかった。倫は藤原に抱かれながら「殺せ」とは言わなかった。ただ、苦しそうに顔を歪めた。「藤原…藤原…」倫の頬に一筋の涙が流れた。抱かれながら、初めて倫は、藤原の名前を小さな声で繰り返した。
「倫…愛してる…愛しているよ…倫。」今、倫は藤原からこれを聞くのが辛かった。苦しかった。

そうだ。妻に似ていた。…倫はそれがショックだったのだと自分で今、わかった。「藤原…藤原…」倫は涙が溢れて止まらなくなった。(俺は藤原の妻の身代わり…)倫はそう思い、心には、大きな穴が空いた。

明け方、藤原は言った。
「倫、昨日は(殺せ)と言わなかった」…倫は黙っていた。
「その代わり、俺の名を…」藤原は倫の様子のおかしさは心配しながらも、急なこの変化に戸惑いながら嬉しかった。抱いてる時に、名前を呼ばれたことが…
だが、倫の様子は昨日と変わらなかった。いや、むしろ、もっと落ちているように見えた。

倫は自分がこの男を愛していることを知った。それと同時に谷底へ突き落とされたのだ。

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