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たまゆらの棘

第4章 再臨

海岸沿いから白い小道を登り、丘を上がると、その白い教会があった。

屋根のてっぺんの十字架が無言で倫を迎え入れた。
倫はそうっと扉を開けてみると、暗い聖堂の中に、いつの間にか晴れたのか、ステンドグラスから美しい光が漏れ、中の白い聖母マリアの彫刻の額に、その色を落としていた。

祭壇は綺麗に整理され、豪華ではなかったが質素に花が飾られていた。この平日の夕方の、しんとした何も聞こえない中に佇んで、倫はその静けさと厳かな空気を、素直に清潔だと感じた。

礼拝堂には誰もいなかった。
(そうか。こんなところでジャンバルジャンは盗みを働いたのか…)なんてことを倫は思ったが、倫にその気はなかった。

ふと、人の気配がして倫は後ろを振り向いた。誰もいないと思っていた聖堂に、一歳位の赤ん坊を抱いた少女がいたのだ。
「アゥア…」赤ん坊が倫を見て何か言った。倫は何故かここにいるのが恥ずかしくなり、すぐにその教会を逃げるように外に出た。


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