
たまゆらの棘
第1章 幼き日々
倫は保健医の女性とも関係を持っていた。傷の秘密を問わないなら抱かせてやると言ったのだ。二十八歳の女性。何のためらいもなく倫を性の道具にした。
倫の美しい立ち居振る舞い、ピンと伸びた背筋、それは日舞の稽古から得たものであり、美しい顔立ちは生まれもった母親似であった。それは学校中の誰もが一目置く美しさだった。一学年上には真性のホモセクシャルの先輩もいて随分と可愛がって貰えた。
家庭では限界がきつつあった。倫の中で、もう義父の言いなりにはならぬ選択と日舞を辞める選択に迫られた。悔しさが込み上がり、倫はひとり自宅の自室で毎晩むせび泣いた。自分から日舞をとったら何も無くなる…悔し涙が後から後から込み上げてきた。
ある日、「倫、来なさい、」義父の言いなりにはもう耐えられなかった。
「嫌です。」「何?」義父は目をこれでもかという位に円くした。「日舞はどうする」「…辞めます」と言うと倫の胸は熱くなり、それは悔し涙として浮上してきた。
「もう、あんたの言いなりにはならない!日舞も捨てる!」倫は泣き叫んだ。
「倫。落ち着け。今まで通りでいいじゃないか」義父は倫の肩を掴んだ。
「触るな!俺はあんたのせいで悪魔になったんだ。戻れっこない!全て終わりだ!」義父を振り払うと、そこへ母親が帰宅してきた。いつもの事と母親は知らぬ顔をしていた。その母親の横顔を見て倫は言った。「お前もだ。お前も悪魔だ!この売女!俺と同じだ!」母親は生まれて初めての息子の暴言に胸をつかれ口を開けた。が、何も言えなかった。倫は素足で飛び出した。(畜生!俺はずっと我慢してきたんだ…)後から後から涙が止まらなかった。気付くと、父親とよく散歩した土手にいた。
「父さん…父さん!」倫は悔しくて、父親が恋しくて…泣いた。泣きすぎてそれは嗚咽に変わった。草を無意識に、むしり取り、そこら中に投げていた。
「どうしたんだ?」倫はその声にびくりとした。振り向くと、自転車にまたがった男がこっちを見ていた。倫は決めていた。もう、あの家には帰らないと。そう、ほら、追ってこない。
倫、中学年卒業間近の真冬の夜の出来事であった。
倫の美しい立ち居振る舞い、ピンと伸びた背筋、それは日舞の稽古から得たものであり、美しい顔立ちは生まれもった母親似であった。それは学校中の誰もが一目置く美しさだった。一学年上には真性のホモセクシャルの先輩もいて随分と可愛がって貰えた。
家庭では限界がきつつあった。倫の中で、もう義父の言いなりにはならぬ選択と日舞を辞める選択に迫られた。悔しさが込み上がり、倫はひとり自宅の自室で毎晩むせび泣いた。自分から日舞をとったら何も無くなる…悔し涙が後から後から込み上げてきた。
ある日、「倫、来なさい、」義父の言いなりにはもう耐えられなかった。
「嫌です。」「何?」義父は目をこれでもかという位に円くした。「日舞はどうする」「…辞めます」と言うと倫の胸は熱くなり、それは悔し涙として浮上してきた。
「もう、あんたの言いなりにはならない!日舞も捨てる!」倫は泣き叫んだ。
「倫。落ち着け。今まで通りでいいじゃないか」義父は倫の肩を掴んだ。
「触るな!俺はあんたのせいで悪魔になったんだ。戻れっこない!全て終わりだ!」義父を振り払うと、そこへ母親が帰宅してきた。いつもの事と母親は知らぬ顔をしていた。その母親の横顔を見て倫は言った。「お前もだ。お前も悪魔だ!この売女!俺と同じだ!」母親は生まれて初めての息子の暴言に胸をつかれ口を開けた。が、何も言えなかった。倫は素足で飛び出した。(畜生!俺はずっと我慢してきたんだ…)後から後から涙が止まらなかった。気付くと、父親とよく散歩した土手にいた。
「父さん…父さん!」倫は悔しくて、父親が恋しくて…泣いた。泣きすぎてそれは嗚咽に変わった。草を無意識に、むしり取り、そこら中に投げていた。
「どうしたんだ?」倫はその声にびくりとした。振り向くと、自転車にまたがった男がこっちを見ていた。倫は決めていた。もう、あの家には帰らないと。そう、ほら、追ってこない。
倫、中学年卒業間近の真冬の夜の出来事であった。
