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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第4章 其の四

 美空は言葉を呑み込む。
 新しき藩主である孝俊が藩邸に迎える女は既に懐妊している―、どうやら、尾張藩邸の者にとって、美空が孝俊の子を身ごもっていることは周知の事実らしい。
 藩邸の人たちは皆が皆、このように感情をどこかに置き忘れてきてしまったかのような連中ばかりなのだろうか。改めて自分がこれから赴こうとしているところがこれまではあまりに縁遠かったことを悟る。
 ふと胸に芽生えた不安を、美空は無理に意識の外に追い出そうとする。
 もう一度、空を振り仰ぐ。傍らの奥女中は諦めたのか、呆れたのか、小さな吐息をつくと、美空の傍から離れた。
 灰色の天から落ちてくる雪は、どこか幻想的で、現(うつつ)の世界のものとは思えない。舞い降りてくる雪が美空の波立つ心を鎮めてくれるようだ。
 孝俊の傍にさえ居られれば良い。愛する男の傍にいられるのであれば。
 美空は決意を秘めた瞳で、いつまでも雪を見つめていた。
                 (第一話 春に降る雪 おわり 明日から第二話へ)

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