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RAIN

第3章 初恋《翔side》

傘も差さず、雨に打たれてその人はベンチに佇んでいた。ぼやけた視界で、その人しか俺の瞳は映っていない。

顔が見たい。男性であるのは違いない。異性ならまだしも、なぜ同性の顔をみたいと望むのか。自分でも分からない感情だった。
でも間違いなく俺はあの人の顔を見たい。その衝動のままに足をあの人の元へと向かっている。


地面へと俯いているその人も、さすがに俺の気配に気付いたようだ。今まで全く動かなかった彼がゆっくりと顔を上げた。

俺が望んでいたことが起こる。
その感動にも似た感情が高ぶり、俺の鼓動が早鐘を打ち始めた。

青年が俺へと顔を上げた瞬間、俺は息さえするのを忘れてしまっていた。



雨に濡れた黒髪は肌に張り付き、前髪は雨により大きな水滴を作り、まるでそれは幻影を見てるような錯覚に陥った。何よりも青年の黒い瞳に魅入られる。
何の曇りもない美しい瞳。その瞳が不安げに俺を映していた。


なんて儚いんだろう。そして誰よりも美しい人。

俺はこの青年から目を離せずにいた。

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