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RAIN

第10章 裁かれた母子の行末《拓海side》

翔の表情が曇り始める。どう反応すればいいのか、どう返せばいいのか迷っているのだろう。

翔の戸惑いを受けながら、俺はわずかばかりの後悔に苛まれそうになる。


「……俺の方こそごめんなさい……」
やっと翔から返ってきた言葉は謝罪の言葉だった。
「辛いこと言わせちゃって……」
心底項垂れる翔の姿に、俺は胸が締め付けられる思いに駆られる。

彼は無償の愛を捧げてくれる。相手を思いやり、常に俺を優先に考えてくれる。

俺は今まで軽い同情はされたことがあっても、こうして心の底から嘆き悲しんでくれる人間はいないに等しかった。見返りを求めず、純粋に親愛を示してくれる人間は不幸に見舞われる。
実の母からも愛情を得ることは数える程度しかない俺は、翔の存在はとても神聖なものにすら感じられた。

俺は心を痛めている翔を少しでも和らげようと、努めて笑顔を作る。
「もしよかったら……、俺の過去を聞いてくれるか?」
え、と翔が小さく息を吐くのが目に入る。
「もし迷惑でないなら聞いて欲しい……」
それは俺の本心だったのかもしれない。
けれど俺がこれから語る過去は、もしかしたら翔を遠ざける結果に繋がるかもしれない。なぜなら翔が自らの意思で俺から距離を置こうとする恐れがあるからだ。
今まで滅多に明かすことのない俺の幼少時代。俺の壮絶とも取れる過去は今も俺を大きなトラウマとして残っている。だから他人に明かすことは稀でしかなかった。

この少年が俺の過去を聞いてどう反応するのか、少し不安もあったが、あえて俺は明かすことを選択した。
これは一つの賭けだったのかもしれない。
翔が俺から離れないかどうかの賭け。彼の愛が本物なのかどうか、俺は卑怯な手で確かめようとしていた。


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